Case Studies

県内一斉に「1人1台」環境へその先に見据えるものとは

インフラとしての教育環境整備

―奈良県―
奈良県教育委員会/奈良市教育委員会

文部科学省「GIGAスクール構想の実現」では、大規模な調達のしやすさや、教員の異動・児童生徒の転校があっても円滑に利活用が継続できることなどから、都道府県レベルでの共同調達を推進するとしている。児童生徒1人1台の整備を県域共同調達によって実現した奈良県と、仕様の策定に大きく関わった奈良市を取材した。

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端末整備に先駆けて
G Suite for Education™️ のアカウント付与を実施

 2020年4月末、奈良県は、県内の国公立学校で同一ドメインによる G Suite for Education の環境を用意し、全ての教職員と児童生徒にGoogle アカウントの付与を始めたと発表した。1人1台の端末整備に先駆けて「1人1アカウント」を付与したこととなる。

 「奈良県域GIGAスクール構想推進協議会」の事務局長として環境整備を牽引する、奈良県立教育研究所主幹 小崎誠二氏にお話を伺った。「ポイントは2つ。費用をかけずにスタートできることからすることと、みんなで一斉にできることを前提とすることです」

 GIGAスクール構想による1人1台の端末整備は県域での共同調達として今年度中に実施が決まっているが、これについては将来のBYOD*1を前提としたものとなる。

 限られた費用の中で県全域の学校のICT環境を統一的に整備する方法を検討した結果、廉価な端末を初回に限り国費と自治体の負担で揃えること、また、G Suite for Education という無償のツールを利用することで実現した。アカウントの早期利用開始には、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う学校の臨時休業も大きなきっかけとなった。

 G Suite for Education はブラウザベースであるため特定のOSに依存することなく利用でき、アカウントが端末と直接紐付くことがないため、端末が変わっても常に同じ環境で作業することができる。

 県立学校の校務システムではWindows 端末と Microsoft 365® のアカウントを使用している。そこに G Suite for Education を新たに追加する形であったため、特に混乱もなく、自治体の関係者や教職員から反対の声があがることはなかった。

県域での共同調達を実現

 学習者用端末の共同調達に至ったベースには、10年前から県域でライセンスの包括契約を行ってきた実績や、自治体・校種の垣根を越えた教員研修を長年続けてきた手応えなどがあった。

 GIGAスクール構想が文部科学省から公表されてすぐに、県立教育研究所が主体となり、各自治体と連携、方向性を協議した。

 「直前まで校務システムの話をしており、一緒に進めることに違和感はありませんでした」と話すのは、奈良市教育委員会 谷正友氏。複数回にわたる教育長会や自治体への個別訪問を実施。県内各自治体間の結束を強めた。

 「奈良県域GIGAスクール構想推進協議会調整部会」は谷氏を会長に据え、端末の選定に取り組んだ。最終的な端末の選択は各自治体に任されるため、3OS*2の比較が適切に行われるよう、48項目にも及ぶ比較検討表を公開したり、展示会や勉強会を実施したりするなど、検討材料を充実させた。

 その結果、多くの自治体が共同調達への参加を表明し、端末の選択は最終的に Chromebook が96%、残りが iPad となった。

活発な活用に向けて

 各自治体の端末は8月から11月頃にかけて整備されるが、それに先駆け、県では既に G Suite for Education の運用と教員研修を始めている。

 その理由について、小崎氏は「運転免許をとってから自動車を購入するのと発想は同じ」と話す。「ソフト面とハード面が一体となってこそ役立つと考えたら、最初にやるべきは教員研修ではないでしょうか」

 研修には、授業でのツールの活用について、具体的な内容も多く盛り込まれる。いざ端末が使える状態になったときに、すぐに活用をスタートする狙いだ。

 実際に活用が始まれば、それぞれの学校や自治体での特色ある実践が見込まれる。「これまでは優れた実践を見ても『あの学校は整備が進んでいるから』との見方をする先生方もいたと思います。全ての学校が共通の環境、同じ条件との前提があれば、『真似してみよう』という意識につながりますよね。また、統一プラットフォームによって教員間の情報共有がしやすいことも、先生方の切磋琢磨を加速するのではないでしょうか」(谷氏)

 県域での共通の環境が、学校間・自治体間の情報共有、優れた実践の広がりをより活性化することが期待される。

BYODが意味するもの

 GIGAスクール構想によって整備する1人1台端末は、将来的にはBYOD、つまり家庭の負担で購入することを前提としている。この大きな改革の背景について、谷氏、小崎氏にそれぞれ伺った。

 「1人1台が日常になると、教育の手法が大きくシフトすることになります。例えば学習者用デジタル教科書が当たり前になったら、紙の教科書とデジタル教科書が逆転して、家に持ち帰るのはデジタル教科書、紙の教科書は学校にある物を必要なときに借りるという光景もありえるわけです。それくらいのインパクトある事業がGIGAスクール構想だと思っていますね」(谷氏)

 「電気、水道、ガス、そしてインターネット。この4つは社会インフラであり、無ければ生活が成り立ちません。インターネットはまだ全ての家庭に行き渡っていませんが、これから先の社会で、インターネット無しで物事を考えることはありえません。『ICTは文房具』と言われることがありますが、まさに文房具と同じように家庭の負担で購入する物の1つとして、情報端末を考えてもらいたいのです。今回は学校が用意するので、全員が1人1台を持って学校でも家庭でも勉強でも遊びでも使う。その結果、必要性が確かなものとなったら、次回の購入は各家庭に負担していただけたら、という趣旨です」(小崎氏)

奈良県立教育研究所のWEBサイト内で、プロポーザルの内容や推進日程など詳細を公開している
奈良県立教育研究所のWEBサイト内で、
プロポーザルの内容や推進日程など詳細を公開している

 奈良県立教育研究所所長 大石健一氏は今回の整備について「学校だけで使うのではなく、生活の一部として使う状態にまでもっていきたい」として、子供たちができるだけ自由に使えるような運用を各自治体に呼びかけている。「1年目が勝負だと思っています。壊さないように大切にしまっておくことのないように、どんどん家にも持ち帰らせてほしいとお願いしています」

 学校、家庭という枠組みを越えて、必要な場面で自由に使う。活用の可能性は大きく広がることになりそうだ。「最終的にICTは生活に溶け込んだ形で使っていくものです。これからの時代を生きていく子供たちには間違いなくスキルを身に着けることが求められますから、学校が足踏みをしている場合ではありません。今回の共同調達で児童生徒全員の手元に端末が届くので、その結果としてどんな変化があるのかが問われることになります。教育研究所としては、オンラインによる教員研修の内容を充実させるなど、バックアップを続けていきたいと思います」(大石氏)

 県全域での1人1台の活用は、子供たちの学習に、ひいては生活に、どのような変容をもたらすのか。全国の自治体からの注目が集まっている。

*1 “Bring your own device”の略で、個人所有の携帯用機器(スマートフォンやPC)を職場の業務等に活用すること
*2 iOS、Windows、Chrome OSの3つは、「GIGAスクール構想」の標準仕様とされている
*G Suite for Education、Chromebookは、Google LLC の商標です
**Windows、Microsoft365 は、米国 Microsoft Corporation の、米国およびその他の国における商標または登録商標です

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