Case Studies

「1人1台」で目指すシームレスな学習環境

2020/12/25

小中

40年の歴史を糧に次のステージへ

―茨城県―
つくば市教育委員会/つくば市立みどりの学園義務教育学校

これまで長年にわたってICT教育に取り組み続けてきたつくば市。GIGAスクール構想をきっかけに間もなく整備される1人1台環境で、これまで積み上げてきた実践の成果はどのような形で発揮されるのだろうか。

つくば市教育委員会

つくば市教育委員会
〒305-8555
茨城県つくば市研究学園一丁目1番地1
TEL 029-883-1111 (代表)
https://www.city.tsukuba.lg.jp/kosodate/kyoiku/iinkai/1001193.html

つくば市立みどりの学園義務教育学校

つくば市立
みどりの学園義務教育学校

〒305-0882
茨城県つくば市みどりの中央12番地1
2018年4月開校。「世界のあしたが見える学校」をスローガンとし、ICTを活用した対話的な学びを実践。
プログラミング教育やSTEAM教育などにも積極的に取り組んでいる。

つくば市のICT教育

 つくば市のICT教育の歩みをさかのぼれば、実に40年以上も前のことになる。1977年、市立竹園東小学校において日本で初めて教育活動にコンピュータを導入して以来、ICT環境の整備と効果的な活用に取り組んできた。

 1994年度からは「100校プロジェクト」による市立桜南小学校での取り組みが協働学習の先駆けとなるなど、対話的な学びにも長年にわたって力を入れてきた。

 日本教育工学協会(JAET)による「学校情報化優良校」に市内52の全小中学校が認定されたのは2016年のこと。50校規模での受賞は同市が初めてで、同年の「学校情報化先進地域」に認定された。

 つくば市では2012年度から同市立の全小中学校で小中一貫教育を実施しており、教科担任制の導入や、9年間を貫く独自のカリキュラム「つくばスタイル科」など、特徴的な方法を次々と取り入れている。プログラミング教育に関しても、2020年度の必修化に先駆けて系統的なカリキュラムを開発。2018年から実践を重ね、実践例をまとめた『プログラミング学習の手引き』はすでに第3版まで発行されている。

 ICT教育の歴史や、「研究学園都市」のイメージから、ICT環境の整備も進んでいると見られがちなつくば市だが、学習者用端末の整備は約8人に1台にとどまっている。

 これには、同市の人口増加、それに伴い児童生徒の数が急速に増えていることも影響している。

 例えば、2018年に開校した市立みどりの学園義務教育学校には学習者用端末200台程度が整備されているが、開校時に700人だった児童生徒はあっという間に1300人となった。市全体で見ると、多いときには年に1000人ほど増加しているという。市内どの学校でもコンピュータ室の稼働率は高く、日々、使いたくても使えないという状況が続いていた。

 そのため、GIGAスクール構想は大きな好機となった。「1人1台」の学習者用端末はもとより、インターネット回線の速度向上や教育用クラウドの整備計画を進め、今年度中の整備の目処を立てていた。

突然の臨時休業

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、市内各校の臨時休業が始まったのは2020年3月6日。

 突然のことで、当然何の準備もできないまま休業期間に入ることとなった。それでも、使える物を最大限に活かした対応ができたのは、これまでの経験やノウハウがあったからこそだ。

 中でも真っ先に真価を発揮したのが「つくばチャレンジングスタディ」の存在だった。

 つくば市では家庭学習にも対応した「つくばオンラインスタディ」を2004年に導入。2016年には教育クラウドを整備して「つくばチャレンジングスタディ」として再始動している。インターネット環境があればどこからでもアクセスができ、自分のアカウントでログインをして国語・社会・算数・数学・理科・英語の約7万問に取り組むことができる。

 また、学校の休業が長引く中で、新年度からは学習動画の作成もスタートした。さらに、アンケートフォームを利用して児童生徒向けに健康観察や悩み相談を行ったり、保護者向けにアンケートを実施したりした。

 しかし、オンライン学習を行うにあたって、家庭の環境は様々だ。調査したところ、同市の小中学生約2万人のうち約3%の家庭で、オンライン学習のための十分な環境が整っていないことがわかった。調査結果に基づいて貸し出し用機器の調達を進めると同時に、学校のパソコン教室を開放したり、動画を保存したタブレットを家庭に貸し出したりするなど、可能な範囲での運用を行った。

 みどりの学園義務教育学校の毛利靖校長は次のように話す。「2004年に『つくばオンラインスタディ』を導入するときにも、環境の整っていない家庭はどうするのか、不公平なのではないか、という話題はあったのです。当時の調査で約8割の家庭にはインターネット環境があるという結果でした。そこで、図書館や公民館、放課後のパソコン教室でも利用できるようにして、運用をスタートしました。環境のない家庭が1つでもあったら不公平だという前提に立っていては、いつまでたっても前に進めることはできません。できることから始めなければ」

 現在は家庭への貸し出し用として、GIGAスクール構想整備を前倒しし、700台の端末と500台のルーターを調達済みで、6月22日から貸し出しを開始している。

初めての経験にも全員でチャレンジ

初めての経験にも全員でチャレンジ初めての経験にも全員でチャレンジ

 学習動画を作成・公開したことで、クラウドへのアクセスは急増した。普段は1日200程度だったアクセス数が最大1万6千となり、5月の大型連休時には一時的にサーバーがダウン。すぐに増強を行った。

 結果として大活躍を見せた学習動画だが、もちろん、現場の先生方にとって全てが初めての経験だった。毛利校長は次のように振り返る。

 「4月当初は休業期間が4月22日までとされていたこともあり、授業は学校が再開してから行えばよいとの前提で、授業以外の内容の動画を作成していました。かばんの置き方や、靴の入れ方などについての動画です。ところが、休業が延長となり、いつ学校を再開できるかわからない状況となりました。本格的に”授業”の動画を作り始めたのはそれからです」

 授業動画の作成にあたっては指導者用デジタル教科書が大いに役立った。つくば市では市内の小中学校全ての普通教室に大型提示装置が整備されており、普段からデジタル教科書を提示しながら授業を行ってきた。そのため、比較的特別な準備をすることなく、動画の作成ができたのだ。

 中村めぐみ指導主事は次のように話す。「教育委員会でも動画を作成し、配信しました。それを見ながら、各学校、もともと得意な先生はすぐに始めていましたし、初めての先生はやり方を聞きに来ることもありました。まずは写真のアップロードから始めて、少し時間が経ってから動画をあげることができた学校もありました。それぞれの学校、それぞれの先生のやり方で頑張ってくれていました」

 得意な先生だけが代表してやるのではなく、一人ひとりの先生がチャレンジ精神をもって取り組んでいたことが伺える。作成した動画は合計で500本を超えた。

初めての経験にも全員でチャレンジ

 「特別なスキルを持った先生が多いわけでは決してない」と話す毛利校長。つくば市では市外からの教員の異動もある。その中でICT活用への取り組みがこれだけ先生方一人ひとりに根づいている要因は、教育委員会のリード、体制づくりの積み重ねにあるといえるだろう。

 つくば市では「学校ICT教育推進委員」を設置し、提案授業の公開や実践事例の報告を行う他、学校ICT指導員、指導主事による遠隔での授業支援を行っている。

 また、全員が参加する集合研修の他に、各学校の要望に応じて実施する訪問型研修、オンラインでの研修など様々な形での研修を行うことで、先生方の向上心やチャレンジ精神に応えてきた。

学校と家庭が一体となって

 臨時休業期間中の学習支援に関して保護者にアンケートを行ったところ、75%が「適切である」か「ほぼ適切である」と回答する結果となった。学校側にとっても家庭側にとっても突然の対応を迫られた状況にあって、十分に高い評価であるといえるだろう。

 森田充教育長は「先生方の努力の結果。これまでやってきたことが間違っていなかったと改めて認識した」とした上で、「今後はさらに、学校でやるべき内容、家庭でやるべき内容を意識してカリキュラムを構成していくことが必要」と話す。

 今回、休業期間中の授業動画を作成するにあたって、本来の学習計画から順序を変えたケースがある。

 例えば、通常であれば夏休み後に学習する「九九」(2年生・算数)を扱った動画を作成した。九九の意味などの学習はあとから学校の授業で行うとして、唱えて暗記する活動は家庭でも行うことができると判断したのだ。

 教育委員会から各学校へ「家庭でできる学習内容を選んで、休業中の学習活動とする」「学校が再開したときに、家庭での学習とつながりのある授業をする」との通知があった。その工夫の結果、トータルとして学習の大きな遅れはなく、7月中には休業期間中に生じた遅れを取り戻せる目途が立っているという。

 また、毛利校長は「家庭の教育力に支えられた」と話す。「つくばチャレンジングスタディ」に関して、操作方法などをまだ指導していなかった新1年生が学習をたくさん進めていたことに驚いたという。

 「学びは学校だけで全てが完結するものではありません。学校と家庭は一体となって子供を育てるという意識が必要です。保護者の理解も得て、それぞれの役割をしっかり議論する必要があると考えています」と森田教育長。

いつでもどこでもシームレスに学びを深めるために

 つくば市で毎年開催されるプレゼンテーションコンテストも、今年はオンラインでの開催が決まっている。中村指導主事は、ここでも「学校以外での学び」が生きることで、例年とは一味違ったものになるのではと期待する。「例年は学校での学習の延長という色合いが強いのですが、今回は夏休み中に自分の興味のあることをより深く調べるなど、より個性の強い内容になるのではないかと楽しみです」

 教科の学習においても探究的な学習においても、様々な学びにおいて「学校」「家庭」それぞれの場で深まる要素があるようだ。

 「学校でも家庭でも、学びたいときに学びたい内容を、いつでも切れ目なく学べること、そして学びの足跡がクラウドに残り、いつでも活用できること。1人1台の環境があれば、どのような状況にあってもそれが可能になります」(森田教育長)

 これまで決して十分な整備状況とはいえない中で、効果的な実践を数多く積み重ねてきたつくば市。1人1台の環境が整った先にどのような学びが繰り広げられるのか、今後も目が離せない。

つくば市立みどりの学園義務教育学校

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