Case Studies

ネットワーク監視でさらなるサービスの充実を ~大学情報システムの運用管理~

―福岡県―
九州産業大学

近年の情報技術の革新に伴い、大学教育における情報システムの役割は重要性を増し、充実した環境の整備やセキュリティの確保が急務となっている。既存の人員によってその運用や管理を行っていくために、大学の情報部門にはどのような工夫が求められるのだろうか。

ネットワーク監視でさらなるサービスの充実を
九州産業大学

九州産業大学
〒813-8503
福岡県福岡市東区松香台2丁目3番1号

10学部22学科、大学院5研究科からなる、地域に密着した総合大学。 建学の理想「産学一如(産業と大学は車の両輪のように一体となって、時々の社会のニーズを満たすべきである)」の実現に向け、実践的教育、地域に根ざした研究・社会貢献活動に取り組む。
教職員数613名、学生数:10388名(令和元年5月1日現在)。

導入の背景
データの活用と可視化

 九州産業大学のICTインフラの安定稼働を支える役割を担う総合情報基盤センターでは、24時間365日止まらないサービス提供を目指している。その実現のために活用されているのが、高性能監視システム(Zabbix)による全システムの一元監視、ログ解析のための検索エンジン、可視化のためのダッシュボードだ(図1参照)。

 本システムを導入した背景について、九州産業大学総合情報基盤センター事務室長の橋本忍氏は次のように話す。「情報化社会と呼ばれて久しい中、近年では特にデータ駆動型社会が身近になってきたように感じています。このような状況において、キャンパス全体のデジタルデータをもっと活用できないものだろうかと考えました」。ICTインフラの監視には各システムが出力するログと呼ばれるデータの確認が必要となるが、本システムは目的に応じてログを可視化することができるため、システムの専門家でない職員にも対応しやすいという。

図1 九州産業大学のネットワーク監視イメージ
図1 九州産業大学のネットワーク監視イメージ

導入の効果
稼働率の向上

 システムの稼働状況は、事務室の監視状況表示モニターで常に確認できる。正常稼働は緑色、異常の場合は赤色で示され、システム構成マップ上で位置が表示される。

 本システム導入前は学内利用者からの問い合わせで障害発生に気付くこともあり、復旧作業への着手が遅れることがあった。導入後は障害発生時の初動対応が迅速かつ的確になった上、SNSや学内のWebサイトを通じて、利用者に対するいち早い情報提供が可能となった。問い合わせに対しては「復旧作業中です」と回答できるようになり、このような迅速な対応を重ねることで障害発生時の問い合わせ自体が減少した。「おそらく利用者は、不具合があっても『総合情報基盤センターが対応中だろうだからしばらく待ってみよう』と考えてくれるようになったのではないでしょうか」(橋本氏)

 障害発生時の問い合わせ対応と復旧作業とを同時に担う本センターにとってのメリットは大きい。

生きたデータ活用
日々の運用の中で

 「システム監視は病院での問診に似ている」と話す橋本氏。しかし、 患者のように調子の悪いところを自ら申告できるわけではないので、監視システムの〝教育〟が必要となる。問診項目にあたるシステム監視の条件や閾値の設定が重要なのだ。「人間であれば、体温が37度を超えたら休息が必要という目安があります。しかし、例えばサーバーの場合、温度が37度から60度となったログを見て何らかの異常があることは分かっても、温度が上昇した原因が分からなければ、どのような対処が必要かは分かりません。本学の場合、サーバー温度は平常時37度から49度を推移しており、通知の閾値としては60度を設定していますが、温度の他にも様々な条件を設定しています。サーバー室の空調の不具合、サーバーの冷却ファンの故障、CPUの高負荷であれば一時的なものなのかどうか等、複数の条件から職員の対応が必要な場合にのみ通知するようにしているのです。どのような条件が最適か、試行しながら運用しています」

 閾値を低く設定すると、安全性は高まるものの通知の頻度が増え、逆に高く設定すると、障害を見逃す恐れがある。通知の条件を適切に設定することが効率的な運用のポイントとなる。

 監視状況を表示するモニターを事務室内に常設することで、職員のセキュリティに対する意識や安定稼働に対する責任感も向上したという。職員の田原文月氏は「専門的な知識を使うことなく、画面を見れば正常か異常かの判断ができるので、業務の合間に確認できて便利です。現在は監視状況が10画面に分かれて順に表示されるため、1画面で概要がわかるダッシュボード画面があるとさらに利便性が高まるのでは」とシステムの機能強化への期待を話す。

 基幹システムは5年毎に更新するが、メーカーに提案を依頼するための仕様書を作成する際にも、監視システムの情報が役立つという。「サーバーのスペックや、ディスクの容量、ネットワークの容量について、増強するかダウンサイジングできるかを検討する際、ログ解析データを判断材料の1つにすることができます。導入時には考えていなかったメリットです」と橋本氏。システムの稼働状況を可視化し、それを日々観察することによる副次的効果も少なくないようだ。

今後の展望
シンプルで安定的なシステムを

 九州産業大学では、2021年度に教育研究システムの刷新を予定している。新システムでは、学生同士が時間や場所を問わずコミュニケーションできるオンラインワークスペースによって、コラボレーションの活性化を図る。これらのシステムにも、プラットフォームの一部として監視システムの導入を検討中だ。

 橋本氏は、「システムの理想はとにかくシンプルであること」と話す。年間を通して1万人を超える学生と教職員がより安心安全にシステムを利用するためには、誰にとってもわかりやすいことが重要だ。「将来的には、利用者サービスのさらなる向上、システム全体のさらなる稼働率の向上のため、システム障害時の自動復旧までを実現(現在一部では実施済み)したいと考えています」と今後の監視システムの機能強化に大きな期待を寄せる。

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