Case Studies

教員養成課程におけるICTの効果的な活用

帝京大学「入職前学習会」レポート

新学習指導要領で求められる「主体的・対話的で深い学び」を実現するためには、各教科の授業で児童が協働学習を通じて思考を広げ、深めていく必要がある。そのような授業では、教員の指導においても、児童の学習活動においても、ICTの効果的な活用が期待される。帝京大学では、新年度から教職に就く学生を対象とする「入職前学習会」を実施し、「ICTの活用」を学んでいる。タブレットPCや授業・学習支援ソフト、デジタル教材の使い方を、模擬授業形式で学んだ講座を取材した。



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東京都板橋区に本部を置く私立大学。1966年の創立。教育学部をはじめ文系学部(経済学部、法学部、文学部、外国語学部)は八王子キャンパスで修学する。

ICTを活用した模擬授業を体験

 入職前学習会は教員採用選考試験に合格した学生を対象に、教職センターが毎年12月と2月に実施している。「入職までの手続きと心構え」に始まり、「教職員等への挨拶」「学級経営」「ICTの活用」「アクティブ・ラーニング」など、テーマは多岐にわたる。

 全16講座のうち、「ICTの活用」の講座は3回。1回目はExcelでの作表の方法について、児童・生徒名簿の作成という具体的な課題の中で学んだ。ここでは、着任時に迷うであろう、名簿順の根拠なども含め、学校現場に即した学びを行った。2回目は、成績処理を課題とし、処理を早くするコツ(関数を含む)を用いて実践的に学んだ。そして、取材に訪れた3回目は、タブレットPCによる、授業・学習支援ソフトやデジタル教材の使い方に慣れ親しみ、学生が教員役と児童役に分かれて、算数の模擬授業を体験した。

フラッシュ型教材を使って学ぶ

 講座が行われたICT実習室では、可動式コンピュータや大型提示装置の接続の仕方を体験し、チエルの製品を実際に使ってICTの活用方法を学ぶことができる。模擬授業が始まると、教員役の学生1人が教壇に立ち、他の学生たちは児童役として3人1組のグループに分かれて活動する。授業の導入では、教員役の学生が教員用のタブレットPCでチエルの授業・学習支援システム『らくらく授業支援』を起動し、『小学校のフラッシュ基礎・基本』を使用した。教室前方の大画面に表示された「長方形の面積を求めましょう」の文字を全員で声を揃えて読み上げ、次々と表示される長方形の両辺の長さから面積を答えていく。続いて、「長方形の辺の長さを求めましょう」と映し出されると、学生たちは再び大きな声で読み上げ、テンポよく問題に答えていった。

 フラッシュ型教材は、クラス全員が前方の画面を見ながら大きな声で一斉に読んだり答えたりする。児童がみんな顔を上げて参加するため、教員からは児童の表情が見てとれる。自信を持って大きな声で答える児童もいれば、不安そうな顔つきで小さな声で答える児童もいる。そうしてクラス全体を見わたしながら、知識の定着の度合いを把握し、不安そうな児童には別途指導ができるという利点がある。

タブレットPCで協働学習

 続いて、タブレットPCの使い方に慣れるため、各グループの児童用タブレットPCを起動し、『らくらく授業支援』の「デジタルノート」機能を使用した。

 各グループのタブレットPCに課題のワークシートが配布される。「次の形の色のついた部分の面積を求めます。面積の求め方を図に書きましょう」との問題に、学生たちはペンツールで補助線を引きながら式を書き込み、解答した。「大きな長方形の面積から小さな長方形の面積を引く」グループもあれば、「提示された図形を2つに区切り、2つの長方形の面積を足す」グループもある。そして、教員役の学生が、3通りの考え方を示す画面を「比較表示」して、指名された学生が発表し、考え方を全体で共有した。

協働学習を価値づけする


 活動を終えた学生たちは感想を次のように述べ合った。

 「教育実習で、紙のワークシートを配布し、児童の解答を全体で共有した際には時間もかかり、難しさを感じていました。ICTを活用すれば、瞬時にワークシートを配布でき、個々の考え方を共有できるので、内容を理解することに時間を割けて良いと思います」

 一方で、教員役の学生は「授業・学習支援ソフトがあれば、児童一人ひとりの状況を把握しやすく、指導すべきことが明確になります。また、各自の解答を比較表示することもでき、子供たちの思考を深める時間が作れることがよいと思います」と述べていた。

 最後に、講座を担当した教職センターの松波紀幸講師は、「教員の役割とは、子供たちが共に学び合い、和やかに学べる雰囲気をつくることです。タブレットPCを囲んで、子供たちが思考を広げ、深めるという『協働学習の大切さ』を子供たちに伝え、価値づけをしていってください」と呼び掛けた。

常に学び続ける教員でいること

 教育学部初等教育学科の福島健介学科長は、以前、教職センター在籍中にこの講座を設定した。その理由について、「学生はスマートフォンを使うことには慣れていても、タブレットPCをうまく使いこなせません。そこで、授業・学習支援システムやデジタル教材を使った授業づくりを学び、少しでもICTに慣れておいてほしいと考えました」と説明する。そして、「新学習指導要領のもとでは、どの教科でも、間違いなくICTを活用せざるを得なくなります。学生のうちから、ICTを使った授業ができる力を身につけておくことが必要です」と述べた。

 帝京大学の教員採用選考試験合格者数は増加傾向にある。教員をめざす学生たちは、試験に合格するための対策や、現場で役立つ実務を求めがちだ。その思いに応えるべく、教育学部や教職センターでは授業はもちろん、課外でもさまざまなサポートをしている。だが、その一方で、福島学科長は「大学とは本来、学び方を学び、学び続ける力を身につける場であるべき」との思いも強く、リベラルアーツに触れ、教師としての素養や人間性を培うことを大切にしたい、と考えている。

 それだけに、ICTを活用する意義を、「ICTを通してしか培えないプログラミング的思考がある」とし、「ICTは、子供たちの思考の幅を広げるツールとして使うべき」だと強調する。そして、「教員をめざす学生には、現場で何が求められているのかを見極め、常に学び続ける姿勢を持ってほしい」と願う。

 そんな福島学科長の思いを受けて、松波講師も言葉を添える。「ICTを活用し、授業の効率化が図られれば、子供たちが考える時間が増えます。授業は子供たちが思考し、活動する場。それを支えるのがICTです」。そして、教員として歩き始める学生には「上手にICTを取り入れ、より良い授業をつくる喜びを感じてほしい」と期待を寄せた。

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