Case Studies

未来の先生、ICTを学ぶ 〜教育学部1年生が体験する 『らくらく授業支援』〜

教員養成課程におけるICTの活用

―静岡県―
常葉大学 静岡草薙キャンパス

新学習指導要領の2020年全面実施に向けて、大学の教員養成課程においても、ICTの教育効果や活用する上での留意点について扱うことが求められる。
学習者用タブレットPCと授業支援システムを活用した授業を初めて体験する、常葉大学教育学部初等教育課程1年生の様子を取材した。

常葉大学 静岡草薙キャンパス

常葉大学
静岡草薙キャンパス

〒422-8581
静岡県静岡市駿河区弥生町6-1
1980(昭和55)年に常葉学園大学として開学。現在、教育学部は1課程2学科に1,000名を超える学生が在籍しており、2018年4月に開校したばかりの静岡草薙キャンパスに拠点を移した。

ICT活用スキルとして授業支援システムを体験

教育学部初等教育課程 専任講師 佐藤 和紀 先生
教育学部初等教育課程 専任講師
佐藤 和紀 先生

 「情報リテラシー」は、学部1年生を対象として、パソコンのスキルアップや情報モラル・セキュリティなどを幅広く扱う必修の授業だ。「教育学部の学生には、将来必ず活用することになるであろう授業支援システムを取り上げて体験してもらいたいと思いました」と佐藤和紀先生。

 佐藤先生は、自身が小学校教員時代には授業支援システムを日常的に活用していた。一方で今の学生は、小・中学校時代にICTを活用した授業を経験していないことが多いという。学生にタブレットPCを渡し、チエルの授業支援システム『らくらく授業支援』を使った「協働学習」を児童の立場で体験する機会を設けることにした。

まずは授業支援システムの
「学習としての効果」を感じてほしい

 「今日は、タブレットPCが小学校の教室にたくさんあったらどんな授業ができるのかを体験してもらいます。私は小学校教員時代に、ずっとタブレットPCを活用できる環境で授業をやってきましたが、そういう環境で学習したという人はいますか?……いませんね。だけどこれからは、新しい学習指導要領に示されているように、ICTを活用した授業が当たり前になっていきます」

 佐藤先生は授業の冒頭でICT機器やデジタル教材活用のための知識やスキルの必要性を説明し、考えるポイントとして「授業支援システムでどんな授業ができるか」「授業はどう変わっていくか」「子供たちにどんな力が身につくか」の3つを提示した。

 チエルの『らくらく授業支援』を使って学習者用タブレットPCに課題を一斉に配布し、学習者はその課題にデジタルノート上で書き込みをする。教師は手元の端末で学習者それぞれの記述を把握し、それらを大型提示装置で全員に向けて提示することで、お互いの考えの共有や比較を促す。

ICT活用スキルとして授業支援システムを体験

 今回、佐藤先生はスライド1枚におさまるシンプルな課題を13枚用意した。「授業支援システムを体験するのが全く初めてなので、まずは、正答誤答がはっきりしたコンテンツで、全員の答えを並べて見てどれが間違っているとか正しいとか、最初は単純にそれだけでもいいのかなと思います。次の段階には、他者の意見と自分の意見を比較して意見が変わるとか、考えを再構築するといったことがある。そういう活動になりやすいように、間違いやすい課題や、答えが多様になりやすい課題を選んで提示しました」

 長年、現場で授業支援システムを活用していた佐藤先生だからこその意図が見える。

シンプルな課題で
システムに慣れるところから

シンプルな課題でシステムに慣れるところから

 最初に配布した課題は、キーボードの図に「コピーのショートカットに赤で○をしましょう」という単純なもの。学生たちが自分の端末上に書き込んだ画面のサムネイルが前方の大型スクリーンにずらりと並ぶ。「全員の画面が瞬時に共有できます。大体同じ答えですね」 同様に、課題を次々とテンポよく配布し、操作に慣れさせていく。

 「ここからは、理科の授業です」と言って佐藤先生が配布したのは、2枚の写真に「昆虫はどっち?」と書かれたスライド。「昆虫の方に○をつけて、理由を書いてみてください」と続けた。2つのものを比較するタイプの課題では、互いの回答を共有したときに共通点や相違点を見出しやすいという。佐藤先生は、教師用のPCに一覧で表示される学生の画面の中から数人分を手元のPCで選択し、スクリーンに提示する。「足が6本というのは全員が書いていますね。頭・胸・腹と書いた人は?」 選んだ写真が同じだとしても、選んだ理由まで全く同じになることはない。自分が気づかなかったことや、自分と異なる意見など、スライドを見比べながら、学生どうしで自然と活発な議論が始まった。

教師の役割を考える

教師の役割を考える

 学習の理解度を問うタイプの課題では、スクリーンに並んだ学生の画面の中に間違った答えを見つけてどっと笑いが起きる場面があった。佐藤先生は「大学生だったらこの雰囲気でもいいのかもしれないけど、間違えたことを知られたり、笑われたりするのが嫌な子もいます」と話した。「例えば無記名にして、間違いに気づかせるというやり方はよくやっていました」と自身の経験談を添える。

 また「大学のおすすめスポットを写真に撮ってきて紹介する」という課題では、トイレやシャワールームを「きれいだから」と撮影してきた学生がいた。ここでは、義務教育の学習の場での教師の役割として「撮影を伴う活動では、カメラを持ち込んでもいい場所か? という社会的ルールや倫理を指導する良い機会になります。事前指導をする場合もありますが、あえて事後に指導する方が効果的なこともあります」と、教師が配慮すべき内容について重要な指摘があった。

 教師の役割、学習者への配慮や指導が必要になる内容や場面についても、学生たちが身をもって体験することができたようだ。

学生たちに必要なのは「体験」と「考える機会」

 「今回は1年生でしたが、教育実習の前後であれば、最初に提示するコンテンツや、ふさわしい発問を考えてみるなど、もう少し発展的なことができると思います」と佐藤先生。「教師になったとき、自分が得意でない手段や方法で授業をするのは難しいと思います。でもICTに関しては、経験が少ないとか得意じゃないとか言っていられないですよね。今の子供たちが社会を動かす世代になったときに、当たり前のツールとしてコンピュータを使います。学生たちには、ICTを活用して授業をすることが子供たちにとってどんな意味をもつか、逆に使わなければどんな影響があるかということを今のうちから真剣に考えてほしいと思っています」

 授業に参加した1年生からは、「今取り組むべき課題が明確なので集中できる」「他の人の意見を知ることで、自分の意見を変えたり直したりできる」など前向きな感想が聞こえてきた。「教員を目指す学生には、早いうちにICTを身近なものとして捉え、その教育における意義を考える機会を積極的に作っていきたいと考えています」と佐藤先生は力を込めた。

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