Case Studies

一人が百歩よりも、百人の一歩

 

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 奈良県との県境に連なる山々に囲まれた、三重県津市立太郎生小学校。全校児童38名のこの山間部の小学校で、今、“異変”が起きている。フラッシュ型教材をはじめとする授業でのICT活用が、めざましいスピードで広がりつつあるのだ。研究指定を受けているわけでもなく、ICTが得意な教員が揃っているわけでもない、この“普通の小学校”で、今、何が起きているのだろうか。

2カ月前まで
フラッシュ型教材を知らなかった!

 授業取材のために太郎生小に足を踏み入れた我々は、いきなり驚かされた。全ての教室から、フラッシュ型教材特有の子どもたちの元気な声が聞こえてきたのだ。1年生から6年生まで、科目も国語や算数、理科など、そこかしこでフラッシュ型教材が使われていたのである。
 しかも、使い方も高度。1年生のクラス(児童数3名!)では、ひと桁の数字が書かれたフラッシュ型教材を使い、「これに2を足した数を答えて」「2を引いた数を答えて」「補数を答えて」と、同じ教材を発問を変えて繰り返し解かせていた。フラッシュ型教材の特長を熟知した、見事な活用だ。
 だが驚くのは、まだ早かった。授業を見て感心する我々に、中林校長先生は驚愕の事実を次々と教えてくれたのだ。
 「本校は、研究指定も受けていないし、ICTが得意な先生もいない」
 「実物投影機を使い始めたのは約1年前だが、今では全クラスに実物投影機とプロジェクタがある」
 そして、極めつけの事実はこれだ。
 「フラッシュ型教材の存在を私が知ったのは、たった2カ月前。(見事な活用をしていた)1年生の担任は、フラッシュ型教材を使い始めてまだ3日目です」

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基礎学力を向上したい
これが出発点

 「学校全体で、基礎学力の向上に取り組みたい。全教職員の授業力をレベルアップし、勉強が苦手な子でも『わかる授業』を実現したい。この思いが、全ての出発点でした」(中林校長先生)
 基礎学力を向上させるには、反復学習や定着の確認が不可欠。そこで中林校長先生は、ICTの活用をスタートさせた。自らも実物投影機を使って授業を実施。子どもたちへ指導が通りやすくなる、理解しやすくなるといった効果を実感すると他の先生方にも活用を薦め、今や実物投影機は「黒板やチョークと同様に、授業に欠かせない機器」になった。
 そして09年10月、太郎生小はフラッシュ型教材と出会う。「フラッシュ型教材を知っていた教職員は皆無。それどころか教師の半数以上は、パワーポイントさえ使ったことがなかった」状態での出会いだったが、フラッシュ型教材は短期間で爆発的に広まった。その理由を尋ねると、中林先生は「機が熟していたのでしょうね」と話し始めた。
 「本校では、ICT活用と並ぶ基礎学力向上の“二本柱”として、『パワーアップタイム』(毎朝10分間実施するモジュール授業)を行っています。音読、速読、百人一首、計算などさまざまな活動をしていますが、紙のフラッシュカードも使っていた。だから、フラッシュ型教材に通じるノウハウが蓄積されていたし、同時に紙のカードは作成に手間がかかる、めくりづらいという課題も出てきていた。そこに紙のカードの課題を解決し、それ以上の効果を得られるフラッシュ型教材が入ってきたのです。先生方が飛びついたのは、必然と言えるでしょう」

校内研修で見えてきた、
太郎生小の力の源

 しかし「機が熟していた」だけで、全ての先生が活用し、しかも高度に使いこなせるものだろうか。その秘密を探るべく校内研修会に同席した我々は、再び驚かされることとなった。
 校内研はまず、実践報告から始まった。「こんなフラッシュ型教材を使ったら、こんな効果があった」と、ある先生が説明し始めると、すぐさま「今見せて!」と声が飛んだ。少々ぎこちない手つきでパソコンを操作して教材を披露すると、周りから「どんな発問したの?」「子どもはみんなわかった?」と、質問が続発。議論は一気に過熱した。
 「『3+2』と表示して『5』と答えさせるよりも、『出てくる数字に2を足した数を答えましょう』と指示しながら『3』を表示し暗算させる方が、子どもの脳が活発に動いている感じがする」

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4年生の算数では、上からひと桁までの概数を答えさせていた。

 「(チエル主催の)フラッシュ型教材活用セミナーで、『(教材の)枚数を増やすのではなく、少ない枚数で異なる発問をして繰り返しさせるのがいい』と聞かされ、目から鱗だった。この話を聞かなかったら、枚数をドンドン増やしていたかも」
 と、自分の体験に基づくコツを発表したかと思えば、議論は「子どもの指名方法」にも展開。
 「全員で答えるだけでなく、一人ずつ答える場も設けて、個々の理解度を把握するようにしている」
 「一人ずつ答えさせるときに間違えたら、全員で答えさせる。間違えた子どもを追い込み過ぎないよう配慮している」
 と、実践的な意見が続出した。さらに算数の指導方法や学級経営のあり方にまで波及。校内研の目的は「わかりやすい授業の実現」「授業力・指導力の向上」そして「基礎学力の向上」だと全員が理解していることがよくわかった。
 太郎生小の校内研を見て、私は思った。
 「まるで企業の営業会議、“ワイガヤ”のようだ」と。年上だろうが年下だろうが遠慮なく意見を戦わせる雰囲気。そして「いいものを知りたい、教わりたい。自分の授業に取り入れたい」と、どん欲に学ぶ姿勢。先生たちの目は、「この研修で何かを得て帰ろう」という強い意志で輝いていた。これが、太郎生小の力の源なのだ。
 「一人が百歩よりも、百人の一歩。学校全体で取り組んでいるから、『自分もやってみよう』と意欲がわき、相乗効果で高め合える。教師なら誰でも、授業力を高めたい、子どもに力を付けさせたいと願うものです。子どもが成長する姿を目の当たりにしているから、ICTの力を信じているから、みんなどん欲に取り組むのです」(中林校長先生)

わかっていない子どもが
いることがわかった

 最後に、少し意地悪な質問をしてみた。太郎生小は、どのクラスも10名以下の少人数。教師の指示は通りやすいし、個別指導もしやすい。なのにフラッシュ型教材を使うのはなぜなのだろうか。
 「ある先生が、こんなことを言っていました。『フラッシュ型教材を使うようになって、理解していると思っていた子どもが実はわかっていない事実が判明し、ショックを受けた』と。少人数学級は、確かに子ども一人ひとりを把握しやすいですが、全てを把握するのは簡単なことではない。フラッシュ型教材はその事実に気づかせてくれました。謙虚な気持ちで子どもたちを日々見るべきだと、再認識させてくれました。
 個別指導ももちろん大事です。しかし、授業力のない教師が個別指導をしても効果はない。一斉授業の質を上げれば、教師の授業力が上がり、個別指導力も高まります」
 明治8年開校という伝統ある太郎生小は、残念ながら本年度をもって閉校する。だが、中林校長先生は力強くこう言う。
 「フラッシュ型教材を使い始めたのがたまたま閉校の年だっただけ。教師として当たり前のことをやっているだけです」
 太郎生小の“遺伝子”は、先生方や子どもたちによって、今後も受け継がれ、別の場所でまた花を咲かせることだろう。

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「わかる授業づくり」につながる研修を続けていきたいと、中林校長先生。

 

フラッシュ型教材はシンプル
だからこそおもしろい

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4年生担任
大澤 由美乃 先生

 太郎生小の先生方に、フラッシュ型教材の良さや効果を聞いてみた。
 「フラッシュ型教材を使うようになって、子どもに自信がつきました。特に勉強が苦手な子が、間違えることを恐れなくなった。取り組むうちに正解が増え、自信がついてきたのです。プリントの練習問題を10問解く時間で、フラッシュ型教材は何倍もの練習をできる。練習量が増える分、定着しやすいですね」(4年担任・大澤由美乃先生)
 「フラッシュ型教材はとてもシンプル。だからこそいろいろな使い方や発問を工夫する余地がある。そこがおもしろいですね」(1年担任・田中英美子先生)
 「フラッシュ型教材は、授業への親和性が高い。今までつちかった発問や指導方法をそのまま使えます。だから先生たちも取り入れやすいのです」 (中林校長先生)
 「『この知識がまだ定着してないな』と感じたら、フラッシュ型教材でピンポイントで鍛えられる。基礎基本を徹底できますね」(2年担任・藤田泰司先生)

フラッシュ型教材が
太郎生小にもたらしたもの

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玉川大学学術研究所・准教授 堀田 龍也 先生

 フラッシュ型教材を使い始めたことで、太郎生小の先生方は「理解できていると思っていた子が、実はちゃんと覚えられていない」ことに気づきました。この現実に気づけたことが素晴らしいと私は思いますし、フラッシュ型教材の特長が現れていると思います。一斉に答えさせながら一人ひとりの口の動きをチェックしたり、一人ひとり順番に当てることで、個々の理解度をしっかり把握できる。大人数学級でも少人数学級でも、一人ひとりをしっかり見る難しさや大切さは変わりません。
 そのことを実感した太郎生小の先生たちは、「もっと子どもをよく見よう」「みんなにわかる指導をしよう」と、全教職員が一丸となりました。フラッシュ型教材を使う場面や発問、つけさせたい学力について日常的に話し合い、情報交換や教材共有を推進。ICTに詳しい先生が苦手な先生に教える“一方通行”ではなく、教材の作り方から発問、指導方法、授業計画までアドバイスし合う“双方向”で、高め合った。全教職員が一人も漏れることなく取り組んだから、これほど短期間で活用が広まり、学校全体で基礎学力を押し上げられているのでしょう。

 

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