愛知県小牧市では、子どもの「学び合う学び」をとても大切にしている。子どもが自分の課題を持ち、他の子どもたちや教材と関わり合い、学び合っていく中で、自分を高めていく ――。そんな「学び合う学び」を深めるために、フラッシュ型教材がどう役立っているのだろうか。
学校現場の先生方からの要望で市内の全小学校にフラッシュ型教材を導入
平成23年度の夏に、市内の全小学校(16校)に『小学校のフラッシュ基礎・基本』『小学校のフラッシュ英単語/英語表現』『小学校のフラッシュ算数』を導入した、愛知県小牧市。導入に踏み切ったのは、現場の先生から要望があったからだという。
「小牧市には情報教育に関する組織が複数あります。一つが各校情報担当の先生から成る「IT活用研究委員会」です。その会を中心に、毎年夏の研修会を行い、平成22年度は、玉川大学の堀田龍也先生が、フラッシュ型教材や実物投影機の効用を伝えてくださいました。また平成23年度は、玉置崇先生(愛知県海部教育事務所長)が、自作のフラッシュ型教材を使った実践を披露してくださいました。それらを見た先生方から、ぜひフラッシュ型教材を入れてほしいと要望が寄せられ、「コンピュータ整備検討委員会」に反映して、導入を決めました」
と語るのは、小牧市教育委員会の栗木智美先生。先生方は、フラッシュ型教材のどんな点を評価したのだろうか。
IT活用研究委員長である小牧市立味岡小学校の神戸和敏校長先生にお聞きした。
「フラッシュ型教材は、一つの教材としてできあがってしまっているものではなく、工夫次第で多様な使い方ができる。例えば、同じフラッシュ型教材でも、教師の発問次第でいろいろな使い方ができるし、子どもの実態に合わせて使い方を変えられる点が、好評だったようです」と先生は語る。
また、小牧市が重視する「学び合う学び」に役立つとも判断された。
「小牧市では、全校で『学び合う学び』に取り組んでいます。『これは何だろう?』『どうしてだろう?』と課題をもち、仲間と支え合って学び合う。みんなと協同していく中で、新しい自分を発見していく。こうした子どもの学びを深めるツールの一つとして、フラッシュ型教材のようなデジタル教材を有効活用しようと考えています」(栗木先生)
算数の分数の授業で「学び合い」を実践
小牧市の目指す「学び合う学び」とは、どのようなものなのだろうか。今回は、可知怜先生が担任する4年3組の算数の授業を見学させていただいた。
「どちらの分数が大きいか、大きい方の分数をよみましょう」
と、可知先生はフラッシュ型教材の活用から授業をスタートさせた。大型モニターに次々と表示されるフラッシュ型教材を見て、「6分の7」「4分の5」と答えていく子どもたち。順調に答えていくも、「2/4 3/6」と問題が表示されたところで、子どもたちの声が止まった。
「どっちが大きいと思う? 2/4? 3/6? いっしょ?」という問いかけに、考え込む子どもたち。その様子を確認して、可知先生は「みんな困ったよね? 今日の課題は、2/4と3/6の大きさを比べ、考えることです。なるほど、わかった!と友達に納得してもらえる説明方法を考えてみましょう」と、提示した。
早速子どもたちは、4人グループになって個々に考え始めた。ノートに図や絵を書いては、わからないことを友達と話す。グループ内だけでなく、他のグループの子どもと相談をはじめる子もいた。普段から、グループの枠を越えた学び合いを奨励しているという。
グループが終わると、次は全体で学び合う。指名された子どもが次々と考えを説明しはじめたのだが、そのバリエーションはとても豊かだった。数直線を書いて考える子、円を書いて考える子、丸をいくつも書いて考える子。発表スタイルも様々で、実物投影機で自分のノートを大型モニターに映しながら説明する子もいれば、黒板にチョークで図を書いて説明する子もいた。そして何より、友達の説明に、黙って聴き入る姿が印象的だった。「友達の考えをしっかり聞こう!」と、常日頃から指導しているのだという。
一人が説明するたびに、可知先生は「この説明でわかった人? まだわからないという人?」 と問いかけ、最後はクラス全員が納得できていた。
授業の最後は、フラッシュ型教材でしめくくり。「1/2=□/4」「2/3=□/6」などの問題を出し、□に入る数字を答えさせた。次々と出題するのではなく、手動で1問ずつゆっくり出題。問題を止めて、「なぜ2/3=4/6になるの?誰か説明して?」と問いかけて子どもに説明させるなど、今日の学びを再確認する手段として、フラッシュ型教材を使っていた。「1/4=□/8」の問題で、「2」と答える子と「4」と答える子に意見が割れると、可知先生は「先生は少数派(4と答えた方)の味方をするので、2だと思う人は、その理由を4だと思う人たちに説明してください」と促していた。教師が解説するのではなく、あくまで子ども同士で学び合うというスタンスを貫いているようだ。
フラッシュ型教材の良さそして使い方のポイントとは
「今日の授業では、授業の冒頭と終わりにフラッシュ型教材を2回使いましたが、それぞれ目的が違います。授業の冒頭でのフラッシュ型教材は、子どもたちに『わからない』感を与え、今日の授業の課題につなげるのがねらいです」(可知先生)
最初は二つの分数の大小を問う簡単な問題から始めて、終わりに二つの分数が等しくなる難しい問題を持ってくるように順番を工夫した。子どもを戸惑わせ、「等しい分数」について考えるきっかけにするためだ。
そして授業の締めくくりに使ったフラッシュ型教材は、今日の学びの再確認が目的。だから1問1問、みんな理解できているかをチェックしながら、ゆっくり進めたのだという。
「授業の最後に使ったフラッシュ型教材は、チエルの教材。授業の冒頭で使ったフラッシュ型教材は、eTeachersからダウンロードした教材を自分なりにアレンジしたものです。eTeachersはよく活用していますよ」
フラッシュ型教材で特に頻繁に使っているのが、地図上で都道府県名を答える問題だそうだ。他にも、国語の授業で漢字の読みを答えるフラッシュ型教材をよく利用しているという。
「出題順をランダムにするように工夫しています。いつも同じ順番で出題していると、子どもは答えを丸暗記して、問題を見ずに答えるようになる。出題順をランダムにすることで、丸暗記ではなく、ちゃんと理解して覚えているかをチェックできますし、どの問題につまずいているかを発見できます。機械的に答えるのではなく、じっくり考えて答えるように心がけて使っています」 正解を言えている子どもが少ないなと判断した場合は、問題を一時停止し、解説を書き込み、理解を促すこともあるという。
「パソコン教室での自習に、フラッシュ型教材を用いることもあります。子どもは一人1台のパソコンに向い、私は子ども一人ひとりの画面をモニタリング。画面が止まっている子どもがいれば、歩み寄って指導しています」
今後は、他の先生方にも、フラッシュ型教材の良さを知ってもらいたいという可知先生。「フラッシュ型教材を使った授業をしますので、ぜひ見に来てください」と呼びかけているという。
「フラッシュ型教材をベースに、教師同士で教材研究ができるようになればいいですね」
子どもの学び合う学びに、ICTをぜひ役立ててほしい
本校の子どもたちは、とても素直で、子ども同士の仲がいいんです。だから、学び合いもうまく進んでいます。今日の可知先生の授業でも、一人ひとりがとてもおもしろい考え方を出してくれました。
本校の子どもは素直な分、指導すると確実に響くし、着実に伸びます。だからこそ、教師の授業力が重要です。フラッシュ型教材に限らず、近年は学校現場にICTがどんどん入ってきています。チョーク1本だけで授業を行う時代では、もうありません。若い教師とベテランの教師がお互いの授業を見合って、それぞれの良さを学び、授業に活かしてほしい。そして子どもの学び合う学びに、ぜひともICTを役立ててもらいたいと思います。
フラッシュ型教材などのICTを活用した授業を教師同士で見せ合い、
より良い授業をつくっていきたい
フラッシュ型教材が導入されて半年あまり。教師によって使う頻度や場面には差がありますが、算数の授業で使われていることが多いようです。授業の導入で用いて興味を喚起したり、今日の課題につなげたり、前時の復習などに用いられています。
今後、フラッシュ型教材をより効果的に活用するためには、教師同士でお互いの授業を見て、議論を深めることが大事でしょう。今日の可知先生の授業も、新任の先生たちが見学に来ていました。本校の教師は、年間に最低1回は公開授業を行っています。授業のいいところはみんなで共有し、公開授業をきっかけに、「もっとこうしたほうがいいのでは」と、校内の議論を深め、よりよい授業をつくっていくのがねらいです。
「学び合う学び」を深めるようなICT機器の有効活用を考えます
近い将来、子どもが一人1台のタブレットPCを持つ時代がやってきます。そうなっても、小牧での「学び合う学び」は普遍的です。それを深めるためのICT有効活用をしっかりと考えています。教師も子どもも、道具や資料として活用できるとよいですね。
また、ICTは教師同士の「学び合い」にも役立ちます。小牧市では、授業の様子を撮影して授業研究しますが、その動画を市教委のホームページにアップして、市内の先生方に見てもらえるようにする計画を推進中です。授業実践は、実際に見てもらうのが一番わかりやすい。各校の参観も比較的自由ですが、自分が担任をもっているとなかなか行く余裕がありません。各校の実践動画をいつでも見られるようになれば、教師の学び合いが一層進むでしょう。