Case Studies

「ICTのある日常」 −スモールステップで着実に−

全校あげてのICT活用事例のご紹介

―愛知県―
春日井市立出川小学校

愛知県春日井市では、20年前から段階的に学校へのICT整備を進めてきた。2007年に新設されて以来、市の取り組みをリードしてきた市立出川小学校の「いま」を取材した。

春日井市立出川小学校
春日井市立出川小学校


春日井市立出川小学校

〒487-0025 愛知県春日井市出川町8丁目3−1
2007(平成19)年設立。めざす子ども像として、「学んだことをもとに、みんなで試行・判断・表現し合える子」を掲げ、学習規律の徹底とICTの有効活用について、研究・実践をしている。

始まりは二十年前、校務の情報化から 

校長 水谷 年孝 先生
校長 水谷 年孝 先生

 春日井市のICTに関する取り組みは、1999年、校務の情報化からスタートした。2006年に普通教室への実物投影機の整備に着手し、2009年のスクール・ニューディールのタイミングで市内の全小学校への常設を実現した。早い段階から校務を情報化し、「ICTは便利なもの」という教員の意識が一足先に定着していたことが、これまでの段階的なICT整備の成功の一因となっている。

 なかでも出川小学校は2007年の新設当初からICT整備を積極的に行い、2013年から全市で推進している学習指導や学習環境の指針「かすがいスタンダード」の原型をつくるなど、市の取り組みをリードしてきた。「かすがいスタンダード」が「ICTの有効活用」とともに軸としているのが「学習規律の徹底」だ。机上の学習用具の配置や、挙手・返事のしかたなどを全校で統一して指導する。

 校長の水谷年孝先生は次のように話す。「学習規律が身につくと授業中の細かい指示が減るので、学習の本質に時間を費やすことができるようになります。全校で方針を統一することで、高学年にもなると指導の必要はほとんどなくなります。華やかなことは何もやっていないんです。ただ、『みんなで取り組んでそれを広める』ことを着実にやってきたつもりです」

無理なく「一歩進める」サイクルの継続

 出川小学校には1年間の授業研究のサイクルがある。年度が始まると、5月末の運動会までは「学級づくり」「学年づくり」に力を入れ、学習規律などの基本的なことについて共通認識を深める。6月になると6年生の学級で授業研究を行い、全校の教員が参観する。その目的について水谷校長はこう話す。「『6年生の姿』を全校で共有するためです。この姿に近づけるためにはそれぞれの学年で何をするべきなのか、どんな力を育てたいのか、考えるときの基準になります。10月の校内研究会を経て、2月には他の学年の学級で再び全教員参観のもと授業研究を行います。6月時点の6年生の姿と比べることで成長度を確認し、さらに来年度の進め方を検討するんです。そのサイクルの中で課題を見つけてみんなで一つずつ解決していこう、という流れができています」

漢字をスクリーンに大きく映して空書き
漢字をスクリーンに大きく映して空書き

 ICTの活用においても、そのスタンスは変わらない。初めて公開研究会を行ったのが2012年。それから今日に至るまで、ICTを活用した授業の質の向上を目指し、教員が一丸となり、また、教員一人ひとりが創意工夫を重ねて着実に歩みを進めてきた。その継続のコツについて水谷校長は「無理をさせないこと」と話す。「子供たちの学びと同様に、スモールステップが大切です。『ちょっとの工夫』で『一歩進める』、その積み重ねですね。当然ですが、ICTを使うことが目的ではなく、使った方がいいから使うんです。授業の前提となる『どんな力を育てたいのか』という部分に変わりはありません」

 これまでを振り返って、授業でのICTの活用は確実に進歩していると水谷校長は実感している。「ICTと言っても、初めの頃はいわゆる『拡大提示』が精一杯でした。それが今では少しずつ、教員の出番が減って、子供たちが活動する場面を作れるようになっています。教員も子供たちも成長してくれていると思います」

 出川小学校の成果を水平展開するため、市教委と共に授業研究の公開も積極的に行ってきた。「校内研を公開し、各校の教務主任などが参加しています。授業を参観後には、教務主任が集まって研究協議をする場も設けており、そこでは、自分の学校に持ち帰りたいと思ったものをレポートにまとめてもらっています。私たちも、どういうところが評価されているのか知ることができますし、各学校での授業づくりにも役立ちます。市内全体で、教科の内容という枠を越えて授業の質を向上させることへの意識が高まっています。最近では高森台中学校・藤山台小学校も加わり、3校が拠点となって成果を共有しています」(水谷校長)

普通教室の「基本4点セット」
普通教室の「基本4点セット」

普通教室の基本4点セットと児童用PC

タブレットPC専用のソフトケース
タブレットPC専用のソフトケース

 授業の様子をのぞくと、全ての教室で共通して使われているのが黒板の左端に取りつけられたマグネットスクリーンだ。「マグネットスクリーンと実物投影機、プロジェクタにPCが、普通教室の『基本4点セット』です」と水谷校長。教員は授業で使う教科書やプリントを必ずこのスクリーンに拡大提示して、説明や指示をするときに活用する。児童が自分の考えを説明するときに手書きのノートを提示することもできる。ペンで直接書き込み可能なのもスクリーンの利点だ。「スクリーンに投影するだけで、説明も伝わりやすくなりますし、様々な面で時間の短縮につながるんです。現在は市内の中学校でも同様に活用しています」

 児童用のタブレットPCは必要に応じて使っている。授業中の出し入れをスムーズにするため専用のソフトケースを台数分購入した。使わないときはこのケースに入れて、さっと机の脇にかけておくことができる。授業が終わったらケースは箱に回収し、タブレットPCは充電保管庫へ。ここでも「学習規律」が効果を発揮する。 

タブレットPC専用のソフトケース
タブレットPC専用のソフトケース
左:5年担任 本田 智弘 先生 右:6年担任 久川 慶貴 先生
左:5年担任 本田 智弘 先生 右:6年担任 久川 慶貴 先生

一歩ずつ、歩みを止めずに

 出川小学校では、3年生でローマ字を学習するとすぐにタイピングの練習を始め、徐々に作文などの下書きもPC上で行えるようにしていく。清書は手書きで行うこともあるが、PCでの下書きは書き直しが容易なことに加え、児童がお互いの作文を読み合う上でも都合がよい。5年生になると、プレゼンテーションの作成や調べ学習なども行うようになる。

6年生の調べ学習
6年生の調べ学習
手書きのボードを使ったプレゼンテーションの学習
手書きのボードを使ったプレゼンテーションの学習

 5年担任の本田智弘先生は「調べ学習では『情報を鵜呑みにしてはいけない』と指導しています。1つの情報をもとに判断するのではなく、複数のサイトで確認したり、インターネットだけでなく本で調べたりすることや、子供たちどうしでもそれを指摘し合うことを習慣づけています」と話す。プレゼンテーションの作成には、PCソフトを使う場合と手書きのボードを使う場合がある。6年担任の久川慶貴先生は「ボードを使ったプレゼンテーションの作成は、グループで行うことができるので、授業の中で子供の発話量を増やすツールでもあります」と話す。水谷校長が次のように続けた。「本校ではタイピングスキルを3年生から育成していますが、その他の情報活用能力(情報を集めて、比べて、まとめることや、プレゼンテーションなどのスキル)の育成に関しても、改めて全校で統一したカリキュラムを検討する時期にきていると考えています。他の地域の学校に好例がありますから、参考にしたいですね。同時に、新しい取り組みをリーダーとなって進めてくれるような教員を育てて、どんどん広がっていくようにしたいと思っています。そのためにも、環境整備を並行して進めていかなければなりません」

 一歩一歩、定着してから次のステップへ、というこれまで通りのやり方で、次の新しい一歩を踏み出す準備はできている。

春日井市立 出川小学校 〜 授業レポート 〜

『基礎・基本 国語検定/基礎・基本 計算検定』は、児童一人ひとりに個別のIDを発行し「国語」「計算」の基礎・基本を学習するクラウド型のデジタル教材だ。同教材を使い始めたばかりの3年生担任、山川敬生先生にお話を伺った。

各自が選んだ学習に取り組む
各自が選んだ学習に取り組む

最初に学習者用のアカウントを使って体験されたそうですね。

山川先生(以下敬称略) はい。体験してみて最初にいいなと思ったポイントは、下の学年の問題にも気軽に取り組めるところです。3年生が2年生や1年生の学習に立ち戻ることは大切ですが、なかなか機会がないですよね。それで、これはいいな、使えるなと感じました。

どのような場面で活用していますか。

山川 授業の中で練習問題を早く解き終わってしまった子供がいるときや、朝学習、給食のあとなどのすきま時間に活用しています。『基礎・基本 国語検定/基礎・基本 計算検定』を導入する前はそのたびにプリントを刷っていたので、準備がいらなくなってとても助かっています。また、冬休み前の個人懇談で保護者にも紹介し、家庭でもできたらやってみてくださいと伝えたところ、クラスの半分くらいの子供が取り組んで、中には「3年生の漢字を全部終わらせた!」という子供もいました。保護者からも「下の学年の問題が復習できるのはいいですね」という声があがりました。

3年担任  山川 敬生 先生
3年担任 山川 敬生 先生

すきま時間での活用について手ごたえはありますか。

山川 紙のプリントだと学習に抵抗のあった子供も、これは楽しんでやっています。『基礎・基本 計算検定』は1つの級が2問で終わりますよね。苦手意識のある子供にとっても負担が少ないし、それぞれのペースで学習できるし、すきま時間にはぴったりです。また、『基礎・基本 国語検定』で筆順の学習をすることで、子供たちの筆順に対する意識が高まったと感じています。「おぼえるモード」で正しい筆順のアニメーションを確認してから書いてみる、というやり方で、6年生の漢字に取り組んでいる子供もいます。

基礎・基本 計算検定
基礎・基本 計算検定
基礎・基本 国語検定 <筆順>
基礎・基本 国語検定 <筆順>

学習履歴の閲覧画面はどのように活用していますか。

山川 主にどの子供がどのくらい進んでいるかの確認と、子供たちへの声かけに活用しています。1つの級に3回合格すると、はなまるが表示されますよね。一人ひとりの進捗に応じて、「はなまる目指してがんばれ」と励ましたり、褒めたりしています。

「いつも通りいきましょう」の一言で、スクリーンに注目する子供たち
「いつも通りいきましょう」の一言で、スクリーンに注目する子供たち

授業の冒頭、「読みましょう、さんはい」という先生のかけ声で『小学校のフラッシュ 基礎・基本』が始まった。次々と表示される都道府県の名称を元気な声で答える子供たち。1秒間もないほどの短い合間ごとに「調子いいね!」「しっかり口動かして!」など先生の”合いの手”が入る。普段から『小学校のフラッシュ 基礎・基本』を活用する3人の先生方にお話を伺った。

授業では毎回活用しているのですか。

望月先生(以下敬称略) 算数と社会の授業で特によく使っています。冒頭でフラッシュ型教材を使って既習の内容を確認することで、よりスムーズに次のステップに進むことができます。

「答えの表示がないフラッシュ」を使っていた先生と「答えつき」を使っていた先生がいらっしゃいました。どのような違いがありますか。

望月 私の場合は、定着するところまでは「答えつき」を使い、だいぶ覚えてきたなと感じたら「答えなし」を使っています。「答えつき」だと、わからなくて迷っている子供も見て確認ができるので。それから、漢字表記を覚えてほしいときなどにも「答えつき」を使いますね。

小池先生 私は今回の授業では、先日のテストで間違えが多かったところを重点的に覚えさせるために「答えつき」を使いました。途中、「京都は県じゃなくて府だよ」「鹿児島の”か”難しいよね」などポイントを伝えるのと同時に答えを表示させるととてもスムーズです。「答えなし」のフラッシュは、ちょっと覚えてきたかなというタイミングで、テンポよくたくさんの問題に答えさせたいときに使います。

左:4年担任 望月 覚子 先生 中:4年担任 小池 速人 先生 右:4年担任 堂込 健介 先生
左:4年担任 望月 覚子 先生 中:4年担任 小池 速人 先生 右:4年担任 堂込 健介 先生

堂込先生は初任の先生と伺っています。フラッシュ型教材を使ってみてどうですか。

堂込先生 基本的な知識の習得にとても便利だと感じています。大きな声で答えてくれると、子供たちが覚えてきているな、と確認でき、指導上も役立っています。今回の授業では、普段から間違いやすい部分を重点的に、「答えなし」のフラッシュ型教材を繰り返し活用しました。

間違いやすい「近畿地方」を重点的に
間違いやすい「近畿地方」を重点的に
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