Case Studies

ICT活用で英語教育を強化 ~4技能のバランスよい育成を目指して~

―千葉県―
千葉県教育委員会

英語でのコミュニケーション能力育成に課題を抱える千葉県では、5か年にわたる「千葉県外国語教育推進計画」を策定している。県立の学校だけでなく、県内市町村の全公立中学校・特別支援学校を対象とした授業改善の推進計画を紹介する。

ICT活用で英語教育を強化~4技能のバランスよい育成を目指して~
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英語でのコミュニケーション能力育成が課題

 千葉県では、「全国学力・学習状況調査」「英語教育実施状況調査」等の結果から、外国語教育における課題が明らかになった。具体的には、英語でのコミュニケーション能力、特に「話す」「書く」といった「発信する力」の育成が十分ではないことだ。この課題を解決するため、2020年から5か年計画となる「千葉県外国語教育推進計画」を策定している。

 この計画では、英語でのコミュニケーションを楽しみ、自分の考えを主体的に発信する力の育成を目指す。充実した英語教育を効率よく実施するためにはICTの活用が必須との考えから、具体的な施策としてICTを活用した授業・評価の改善が大きく打ち出されている。

 千葉県内の学校は、ICT環境整備が遅れているのが現状だ。GIGAスクール構想に伴い、各市町村の公立小中学校には年度内に1人1台が整備される予定となっているが、県立の高等学校ではほとんどがPC教室の40台のみ。タブレットPCの整備を徐々に進めてはいるものの、県全体として学校の学習者用端末はかなり不足している。

 そのような中でも、学校の端末を最大限活用することに加え、家庭の端末や生徒個人のスマートフォン等も使うことを前提としてクラウド型学習ソフトを選定、運用を開始した。また、早い段階から対策を講じることでより効果が見込めると、県の設置する学校だけでなく、県内公立全中学校・高等学校・特別支援学校(千葉市を除く)を対象とし、県の予算で全校に同一のソフトを導入した。

「話す」ための指導と評価

 英語の授業で特に課題となっていたのが、「話す」ことに関して学習活動が不十分であることと、評価が適切に行われていないことだという。指導主事の吉村・下村両氏にお話を伺った。「自分の考えを英語で話すことや、正確な発音の指導などは、先生方も必要性を認識しているものの、十分な指導のためには個別の対応が必要となり、限られた授業時数の中では困難です。また、評価の方法についても文法事項や語彙の知識・リスニングに偏りがちになってしまうのが現状で、話す力を評価するために行っている『パフォーマンステスト』にも改善すべき点があります」

 パフォーマンステストには様々な方法がある。例えば、教師と生徒が一対一で会話をする形式では、授業時間内に1人ずつ実施する。40人のクラスであれば授業2コマを費やすことになり、その間、対象の生徒以外は自習とせざるをえない。一方、プレゼンテーション型のパフォーマンステストは1人ずつ前に出て発表する形で行う。対象の生徒以外も聴き手として参加することができるものの、多くの時間を割くことは難しく、学期に1度行うのが限度である。

 このように、限られた時間の中で行うパフォーマンステストのみでは、生徒たちの「話す力」について少ない機会の中で評価をせざるをえず、生徒たちが上達を目標に繰り返し練習する機会も少ない。

ICT活用でバランスのとれた指導と評価を

 これを改善するために導入したのが、スピーキング学習システム CaLabo Language だ。ICTを活用して効率的に「発音の練習と矯正が可能であること」「生徒が話した音声を蓄積して評価の対象とできること」が決め手となった。

 CaLabo Language では、オリジナルのテキストを入力するだけで、手本となる音声を簡単に作成できる。それを聞きながら、自然なリズムやイントネーションを繰り返し練習したり、部分ごとに発音の矯正をしたりすることが可能になる。

 また、練習した音声はシステムに蓄積されるため、それを評価の対象とすることもできる。これにより、従来のパフォーマンステストに比べて、「話す力」を評価する機会、評価のための判断材料が増えることが期待される。

 「英語で、人と直接会話をしたり人前で発表したりすることに苦手意識のある生徒も、このソフトを使えばミスを恐れることなく自分のペースで練習を重ねることができ、少しずつ自信をつけられると思います」

 ICT活用によって生徒一人ひとりが個別に「英語で話す」機会を増やし、4技能のバランスのとれた指導と評価を目指していく。

ICT活用促進に向けて

 各学校での実際の活用は、まさにこれからとなる。指導体制は各市町村によって異なり、活用の方法は学校の実態によっても様々となるだろう。

 例えば、毎回の英語の授業の冒頭10分に CaLabo Language を使った個別の発音練習の時間をとるなどして話す力の底上げが期待できるほか、より意欲のある生徒には、英語でのプレゼンテーションやディベートの際に、自分の作成した文章を入力して発音の練習に使うことも想定できる。これまではALTに依頼して音読したものを録音していたが、県内のALTの人数が限られる中、それを補う方法として画期的といえる。家庭の端末や自分のスマートフォンを活用することで、生徒の自主的な学習にも期待する。

 多くの学校に活用を広めるためには、情報の発信が重要となる。吉村氏は、5か年計画の進捗状況を定期的なアンケート等を用いて把握するとともに、活用が進んでいる学校をピックアップし、授業風景や活用する教員のインタビュー等を動画配信することも考えている。「これまでのような公開授業という形だと、見に来られる人が限られてしまいますが、動画配信であればより多くの先生方に見ていただけます。教員研修等についてもオンライン化が進んでいます。授業だけでなく、情報の共有・周知や研修についても、ICTを活用することで効率的に進めていきたいですね」

 外国語教育の推進をきっかけに、その他の場面でもICT活用が広まることに期待がかかる。

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