Case Studies

「無線LAN+可動式コンピュータ」で構築したハイブリッド型アクティブ・ラーニング教室

―大阪府―
近畿大学

完全インターネット出願や、Amazonとの提携による教科書のネット配送など、学生の目線に立っていくつもの〝日本初の取り組み〟を手がけている近畿大学。学生の学びやすさを高めるために、2016年4月から運用を開始した「ハイブリッド型アクティブ・ラーニング教室」について、その経緯や効果を伺った。



近畿大学
[東大阪キャンパス]
〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL 06-6721-2332 (大学代表番号)

1925年に「実学教育」と「人格の陶冶」を建学の精神として創立され、2016年4月には国際学部を開設。14学部48学科、大学院11研究科と法科大学院を擁する西日本最大級の総合大学だ。東大阪キャンパスでは2020年の完成を目指す大規模整備「超近大プロジェクト」も進行中。

http://www.kindai.ac.jp/

目指したのは、シンプル&フレキシブル

 近畿大学では、2012年に文部科学省が発表した『大学改革実行プラン』に沿って、「主体的な学修(アクティブ・ラーニング)ができる環境」の整備を推進。新たな講義棟の建設に際して、より有機的にアクティブ・ラーニングを実施するために検討が進められた。課題として挙がったのは、従来のアクティブ・ラーニング型教室では、プレゼンテーションや動画視聴など、使う機能が限定されていたことや、ノートパソコンの貸し出しという手間がかかっていたことだった。そこで、シンプルかつフレキシブルな教室環境の構築を目指し、仕様が詰められていった。

 具体的には、通信は無線LAN、コンピュータは机の中に収納できるサイズのノートパソコンを採用。通常時はケーブルで充電を行うが、グループワークの際にはケーブルを外し、自由にグループごとの〝島”をつくることができる可動式机を採用している。このケーブルレスとハードウェアの省スペース化により、教室内でのスムーズかつ安全な学生の移動が実現。また、フレキシブルという点では、1教室(72席)への統合、または36席ずつ2教室への分離が可能な点も大きな特長だ。ノートパソコンの採用によって学生前面の空間が広くなり、教員と学生が顔を見合わせやすくなることで、スムーズな対面コミュニケーションにもつながっているという。

 「そもそも〝学習はアクティブなもの”という思いがありましたので、この教室は決して特別なものとは考えていません。これまでのPC教室ではデスクトップのモニターでお互いの顔が隠れてしまったり、システムの複雑で使い切れない機能により、授業中のコミュニケーションを阻害してしまうことがありました。ですので、この教室ではそれらを削ぎ落としてなるべくシンプルにしました」と法学部講師の出口朋美先生は説明する。

座席を分けてペア・グループワークに対応。

デジタル機能を活かしつつも、授業のカギはコンテンツ

教室統合した学生PC画面を全てモニタリング。

 近畿大学で目指した「フレキシブル」とは、可動式机や分離統合教室といったハードウェアやソフトウェアの活用方法に限った話ではない。なぜなら、この「ハイブリッド型アクティブ・ラーニング教室」を最大限活用することを大前提とするスタンスでもないからだ。英語、フランス語、情報処理、演習など、この教室を使用する教員の担当科目はさまざまであり、授業形態、指導方法、学生数などに応じて活用方法を変えられる点もまた、「フレキシブル」が具現化された特長である。

 「教員の中でもデジタル好みの人とアナログ好みの人が混在しています。この教室を使用することで『アナログからデジタルにスムーズに移行できた』『それぞれの良さを融合できた』という教員もいますが、まずは個々の教員の授業スタイルを尊重し、それに合わせられる環境づくりを目指しました」と出口先生。シンプルで使い勝手がいいからこそ、柔軟に教員の意向に対応でき、結果的にハイブリッドな空間として機能していると言える。

 「私自身、『CaLabo LX』の機能を使った学生への動画配信や、個別のパソコンへの資料配布などを行う一方で、プリントを配ったり、座学の一斉授業のようなスタイルで教えることもあります。ですから、あくまでも一つの〝ツール”としてこの教室を捉えることが大切だと思っています」

 さらに、「学生をひきつけ、授業を盛り上げ、やる気を高めるために重要なのは、どうしたってコンテンツです。コンテンツありきで、いかにツールを使いこなすかが、学生の理解を深めるためのカギだと考えています」と、教員としてのデジタルツールとの付き合い方について語った。

「ストレスフリーな運用」を実現

 運用開始から数カ月、総合情報システム部の髙木純平氏への問い合わせやトラブルはほとんどないと言う。「インフォメーションスタッフが2名いますが、教室の分離統合の際に最低限必要となるパーテーションの開閉くらいしか、これといったサポート業務は発生していません」と髙木氏。「ハイブリッド型アクティブ・ラーニング教室」がシンプルなスペックによって、「ストレスフリーな運用」を実現していることがうかがえる。そして、「念入りに準備した成果であることは間違いありません。全国の大学の情報を集めた上で、導入に際しては非常に細かい部分の要望にまで対応していただいたおかげですね」と述べる。

 シンプルで操作が簡単、かつフレキシブルに多彩な授業スタイル・指導方法に対応できることは、普遍的・恒常的な価値と言える。現在、日中の稼働率はほぼ100パーセントだが、この教室を新たに使いたいという教員が学部を問わず増えているほか、他大学からの見学依頼も少なくないという。
「いわば、一般教室、PC教室、従来型のアクティブ・ラーニング教室を統合したような、現時点での理想形だと思います。今後、ノートパソコンのワイヤレス充電方式の導入などによって完全なケーブルレスが実現すれば、まさに次世代のスタンダードになると思います」と出口先生は思いを語った。

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