Case Studies

オールインワンで実現! 学修成果の可視化とオンライン授業

―大阪府―
大阪歯科大学

大阪歯科大学では「教育力の向上」を重点目標の一つとして、近年さまざまな改革を行ってきた。その中でも歯科医学系大学として注目すべき「学修成果の可視化」への取り組みと、コロナ禍における臨機応変なオンライン授業への取り組みについて取材した。

オールインワンで実現!学修成果の可視化とオンライン授業
左:テーマ別に整然と並ぶ、上村先生のオンライン教材 / 右上段:上村先生の動画には手描きイラストも頻繁に登場 / 右下段:分野別に学修成果を可視化するポートフォリオ(学生画面)
大阪歯科大学

大阪歯科大学 【楠葉キャンパス】
〒573-1121 大阪府枚方市楠葉花園町8-1

「博愛」と「公益」を建学の精神とし、1911年創立。2017年に併設の専門学校を統合し医療保健学部を新設。2018年には大学院研究科を開設。2学部3学科、2研究科を擁する歯科医療の総合大学として、プロフェッショナルな歯科医師の育成を目指す。

学力と教育力の向上につながる「学修成果の可視化」

 大阪歯科大学では、近年「学力の向上」「教育力の向上」等を目指し、川添堯彬理事長・学長主導のプロジェクトとして、さまざまな取り組みを行ってきた。そのうちの一つが「学修成果の可視化」だ。

 大学教育の質保証において重視される「学修成果の可視化」は、各大学がディプロマ・ポリシーに基づき、学士課程教育全体を通じて培った知識・技能などを把握・測定することが求められる。そのため、多くの大学では、卒業論文や卒業研究、GPAのほか、外部アセスメントテストを活用した、いわゆる汎用的能力、ジェネリックスキルの把握などを行っていることが多い。

 一方で、「医療人育成」の観点からは、歯科医学領域の「学士力」育成において、可視化すべき指標や基準は独自に設定する必要があった。

 そこで同大学が指標のベースとしておいたのは「歯学教育モデル・コア・カリキュラム」(文部科学省)である。これまで総合得点で把握してきた学業成績に、モデル・コア・カリキュラムの領域別成績の把握指標を新たに導入した。

 学内試験の達成度合や成績等が可視化されることにより、学生は自分の苦手な分野を把握でき、足りない部分を重点的に学習することができる。教員にとっても、学生の達成度合が可視化されれば、それに応じて自分の講義内容や手法を見直すことができるため、結果的に、「教育力の向上」と「学力の向上」が相乗的に期待できる。

 「歯科医学は、学習範囲が非常に広く、かつ、それぞれの分野が複雑に関連しています。一般的な資格試験と異なり、医療系資格は全ての領域の学習が目標到達しなければなりません。分野別の学修成果を学生に開示することは大学として大きな転換点です」とシステム担当の坂下和子氏は話す。

Glexa導入の決め手

 「学修成果の可視化」をシステム化する目的で、2020年6月頃の運用を目指して導入を決めたのがGlexaだ。「Glexaなら、本学に合わせて完全カスタマイズできることが決め手でした」と坂下氏。LMSの機能も後押しした。

 カスタマイズに当たっては、1年次から6年次まで成績の変化を順にグラフで追えるようにしたほか、学生が自身の得手不得手を分野別にメタ認知できるようなシステムにした。低学年のうちから、効果的な試験対策ができるようにするためだ。

緊急事態宣言の発令によるオンライン授業の模索

 SHISHIN-Webという学内サービスとしてGlexaのシステム作りを進めていた2020年4月初頭、コロナ禍による緊急事態宣言が発出されることとなる。「授業は絶対に止められない。オンライン授業の準備を始めよう」という学長判断から急きょ、GlexaのeラーニングとLMS機能の活用が決まった。

 「短期間でセットアップできたのは、Glexaの仕様がシンプルだったおかげです。既存の教務システムから学生情報やメールアドレスをCSVでインポートし、全てのクラスルームの枠を作りました」と坂下氏は当時を振り返る。

 さらに新たなクラス枠に全教員を「学生」として登録し、そこに使い方動画をアップし、各教員のログイン状況を確認しながら、Glexaのメール機能で個別にコンタクトを取り、遠隔で教員のフォローを行ったという。

オンラインを使った反転授業で対面の実習時間を確保

 立ち上げから数日で、あっという間にオンライン授業用の動画3週分を作り上げたのは、「授業は黒板を使った対面が一番というアナログ派でした」と自らを語る上村守先生だ。

 上村先生の担当する「解剖学Ⅱ(人体解剖学実習)」は2年生約130人が履修する、解剖学実習中心の必修科目だ。「この先、対面授業を再開しても、実習の人数は密を避けて半分にする必要があり、コマ数は相当減ってしまうだろうと思いました。その状況下で、限られた実習時間を有効に使うためにはどうしたら良いかを考えたのです」。

 そこで、今までは授業の初めに1時間ほど行っていた座学の講義を、オンラインで先行して配信することにした。いわゆる反転授業だ。「6月から対面授業が一部再開され、実習ができるようになりましたが、事前に動画を見ているか見ていないかは手つきや会話ですぐに分かります。術式を予習してこないと周りに迷惑がかかるので、ほとんどの学生がしっかり見ているようです」と上村先生。

 上村先生の制作する授業動画には、10分程度の長さでワンテイクという特徴がある。「長い動画や台本の棒読みは、見る側もつらい。いつもの授業の感じで台本は用意せず、多少言い間違えてもその場で訂正します。編集しないことで作業時間の短縮にもなるし、臨場感があって意外と学生が見続けてくれるようです」。

 Glexaは学生が動画を見たログが残るのが便利だという。加えて、学生にはオンライン授業で学習したときの書き込みやノートなど、「授業に参加したことが分かる証拠」を「レポート」として提出させている。授業終了後にノートをスマートフォンで撮り、気軽に提出できるため、提出率は常に100%に近い。

オンラインの活用で成績UP

 上村先生のオンライン教材は講義のテーマごとにきっちりと整理整頓され、学年問わず復習しやすい構造になっている。解説動画には時に手描きのイラストなどアナログ要素が含まれていることもポイントだ。

 学生からは「解説がとても分かりやすい」「座学より集中して聞けた」「分からないところは何度でも止めて聴き直せるのが良い」などの感想が寄せられている。

 2020年度の「解剖学Ⅱ」では、対面授業のみだった前年と比べ、学生の科目試験の成績が劇的に向上した。「平均点は10点上がり、不合格の学生は3分の1に減りました。今まで対面の方がいいと思っていたので、それが否定されたような複雑な心境」と上村先生は苦笑する。

 既存の授業をそのままオンラインの場に移すのではなく、授業のつくりを新たに設計し直し、対面とオンラインをバランス良く組み合わせた賜物であることは間違いないだろう。

今後に向けて

 今後、同大学ではティーチング・ポートフォリオや学生による授業評価なども活用し、他の教員がどのような授業をしているかを学内で共有し、さらなる「教育力の向上」を目指す。

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