Case Studies

T・P・Oに合わせて対応できるコミュニケーション能力を総合的に育てる

2008/09/18

高大

「受験英語を超える総合的な英語学習の実践」を英語科全体の指導目標としている大妻多摩中学高等学校では、単なる受験指導にとどまらず、現実的な場面で活 用できる英語力の育成に向けて先生方が指導方法を工夫しています。時事英語など、生きた素材を用いてCALL教室を効果的に活用している様子をご紹介します。

耳から入る英語を大きな声で滑舌よく発音してみよう
〜 高校1年生:オーラルコミュニケーション・リスニング 〜

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ソフトテレコを使ってシャドーイング

これまでに比べCALL教室を導入したことによって、生徒一人ひとりのペースで学習させることができるようになりました」とは、リスニングの授業を 担当している松井先生。中学生から高校生まで幅広い学年を指導している松井 希美先生だが、音声ファイルと自作によるワークシートをフル活用することで、2分間程度の長文(ニュースなど)を聞き取ることができる力を段階的につける ことを目標とした指導をおこなっている。特に、松井先生は「流れてくる長文の文意を理解できるような耳を育てるには、まず活舌よく発音できるようになるこ とが大切です」と話す。

その言葉のとおり、松井先生の授業では、音声ファイルの再生速度を変えることができるという『ソフトテレ コ』の特性を活かし、中学1年生の授業からシャドーイングを取り入れている。取材にうかがった高校1年生「オーラルコミュニケーション(リスニング)」の 授業では、飛行機事故を題材としたニュース(長文)を用いてシャドーイングをおこなっていた。生徒たちが正しく大きな声で発音できるように、まずはネイ ティブの音声を自分が発音できるスピードに落として、活舌よく発音するように促し、徐々に本来のスピードに近づけながら、リズムよく発音できるように慣ら していく。音声ファイルの一部のみを繰り返し再生させて聞かせるなど、個々の生徒が自分のレベルやペースに合わせて学習に取り組めるような工夫もなされて いた。

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マイクをつけて生徒に指示を出す松井先生

この後、ディクテーションの問題に挑戦。しっかりと声が出せるようになった生徒たちは、スムーズにネイティブの読み上げる英文を聞き取ることができるよう になっていた。一方で、同校では、先生用パソコンから転送する音声と生徒用机に設置されているMDデッキとが連携しており、先生用パソコンから生徒用パソ コンに音声ファイルを転送すると同時に、生徒一人ひとりのMD に再生中の音声を同時ダビングすることも可能となっている。そのため、授業中に活用した音声ファイルを簡単に自宅に持ち帰らせることができることから、継 続的な学習が必要となるリスニング力強化などの指導において、効果を発揮しているという。この他にも、先生たちが生徒の興味やレベルを考慮して集めた音声 ファイルが、校内設置のファイルサーバに蓄積されているため、意欲のある生徒たちは、放課後などの空いた時間に自由に学習でき、リスニング力UPに繋がっ ている。

ネイティブの英語が聞き取れるリスニング力を鍛える!
〜 高校2年生:オーラルコミュニケーションII(選択 )〜

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授業の導入は具体物を使って

「大妻多摩中学高等学校では、単なる受験英語の指導ではなく、その先にあるものとして『コミュニケーション能力』の育成に力を入れています。ここで いうコミュニケーション能力とは、相手がいるその場で”相手の意見を聞き取り””論理的な思考により””自分の意見としてレスポンスを組み立て” “brokenではない、きちんとした英語で対応することができる”ことを指します」。

このように語る伊藤正彦先生の授業では、生徒たちが興味関心をもちそうなニュースや論文を題材とした音声ファイルやワークシートなどが教材として用意されている。

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生徒のペースを確保しながら個別指導

実は、この「オーラルコミュニケーション?(選択)」の授業では、生徒たちは隔週で異なるタイプの授業を受けることになっている。1つは、”相手の 意見を聞き取る” ことに主眼をおいた伊藤先生によるCALL教室での授業、そしてもう1つは、ディベートなど、実際に英語を活用する場面を多く取り入れたネイティブの先生 による授業である。これら隔週で行われる2種類の授業では、伊藤先生が普段から「環境」「平和」等のトピックに関連する英文を素材としてクリッピングして いるという教材ファイルを元にして、その時々に応じたテーマを統一して取り扱っている。

このような連携をとることにより、「例え ば、CALLの授業の中で取り上げた英文中のフレーズが、ディベートに取り組む生徒の口をついて出たりします」といった学習効果があがっているとのことで あった。様々な工夫が凝らされている授業構成ではあるが、相手の意見を”正確に聞き取る” 力をつけることは、やはりやさしいことではない。そこで、伊藤先生の授業では、言葉と言葉の間にあって聞き逃してしまいそうな単語を含め、”正しく聞き取 る力” を育てるために、ディクテーションによる課題が用意されている。例えば、環境という視点から”ハイブリッドカー” を取り上げたこの日の授業では、ネイティブによるナチュラルスピードで聞くと、あたかも省略されているかに聞こえる”drivers around the world have been feeling・・・” の”have” がポイントとなっていた。「あとにbeenが続くということは、前に何があるか考えながら聞いてみて。もう一度、再生します」「では、究極の手段です! ゆっくり再生して聞いてみましょう」などと声をかけながら、課題となっている音声ファイルを、伊藤先生が速さを変えて送信する。

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分割受信した画面を教室前スクリーンに表示

すると、聞き取ることに神経を集中させた生徒たちは、3回目が送信された段階で”have” の存在に気づくようになった。最後は、元の再生スピードに戻して、もう一度音声ファイルを送信。「どう?ほんのちょっとしか聞こえないよね。(こういうこ とを)聞き取るには、文法の知識が必要です」と、リスニング力を鍛えるためには、文法の知識も重要であることを生徒たちに実感させた。この他にも、伊藤先 生によるこの授業では、個別学習の際に生徒が取り組んでいる生徒用パソコンの画面を分割受信して教室前のスクリーンに映し出し、生徒に緊張感を持たせるな ど、教材・教具の良さを生かした工夫がなされており、生徒たちは充実した指導を受けていた。

「RIR(Readjustment・Improvement・Responsibility)による授業改善に向けた取り組み」

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大妻多摩中学高等学校の英語科での取り組みについて、英語科主任 伊藤先生にお伺いした。今回拝見した2 つの授業では、受験英語にも必要な語彙力・文法力はもちろん、読解力、速読力などの英語運用力を養うような授業展開となっていた。この指導方針を支えるのが、”RIR” という英語科の教員による取り組みなのだという。「Readjustment(再調整)」「Improvement(改良)」「Responsibility (責任)」。これら3語の頭文字をとった先生方の取り組みは、具体的に、CALL教室の導入といった学習環境の改善等(再調整)や、年2回行われる研究授業(改良)、教員各自による指導目標の明示(責任)等、生徒の英語力を育てようとする先生方の姿勢に現れている。

この他にも、『多摩リーディング・テキスト』と呼ばれる独自テキストの編集など、「単なる文法指導の授業にならないように」という、先生方の着実な日々の積み重ねと工夫が、日常の授業実践へと繋がっているのである。

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