Case Studies

『Glexa』を通じて自発的に学ぶ姿勢が身についた

2012/04/24

高大

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 英語を使う場面の少ない学生たちに使う機会を数多く与えたい――。北海道大学の河合剛准教授の講義では、さまざまな課題を通して英語の4技能を使う場面が用意されている。予習や復習も含め、講義をより有効なものへと後押しするのが、河合准教授自らが考案し、開発に携わったe-Learningシステム『Glexa』だ。その活用法を拝見すべく、1年生の『英語演習初級』の教室を訪ねた。

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課題の文章や音声を自宅から提出

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 講義が始まると、学生は各自でGlexaにログインする。学生たちはこれまで「大学構内のオススメ・スポットを英語で紹介する」という課題に取り組んできた。自分で紹介したいスポットを写真撮影し、その内容や歴史、データなど、相手に伝える文章を詳細に書いて、自宅からGlexaを利用して提出する。河合准教授は一人ひとりにオンラインで添削指導し、各自で修正して文章を完成させていく。
 講義はただパソコンに向かって英文を読むだけでは終わらない。自分で書いた紹介文をもとに、ペアを組んだ相手に話して「伝える」活動に多くの時間を割いている。話を聞いた学生は、その内容について質問を投げかけ、紹介した学生はさらに説明を加える。書いた文章を暗唱して、より魅力的に伝えられた学生も多く、自宅での練習の成果がうかがえる。また、学生たちは自分で文章を書いた時点で、想定される質問も考えており、どんな質問にも窮することなく自信を持って説明している姿が目を引いた。質疑応答が終わると、相手から質問された内容をワークシートに書き記して、次にペアを組む相手を探す。複数人とこのようなやり取りを行ったところで、講義は次の活動へ移った。
 プレゼンテーションだ。話者は自身の撮影した写真をスクリーンに映し出し、今度はクラス全員の前で、自分が選んだスポットについて発表する。ポプラ並木やイチョウ並木など、北大を代表するさまざまなスポットが紹介される。大勢を前にしても学生たちは緊張する様子もなく、堂々と説明している。そして、発表が終わると、聞いていた学生たちは、話者に、「ポプラ並木のベストシーズンはいつですか?」「イチョウ並木には何本の木が植えられていますか?」等の質問を投げかけた。相手の話に耳を傾け、内容を理解し、興味を示すという「聞く姿勢」がしっかりと身についていることを感じさせる。話す側も、聞いてくれたことへの感謝の気持ちを表すことを忘れてはいなかった。
 学生たちが自身の書いた英文を暗唱し、堂々と発表できるようになるには、Glexaを活用した自宅学習が欠かせない。河合先生からの課題として、自分で書いた英文の内容を音読して録音し、提出することになっているのだ。
 「講義時間中の英会話の効率を高めたいので、学生には自宅で最低1回は自分の書いた英文を声に出して読んでおいてほしいと話してあります。講義は90分間という限られた時間ですので、90分間という時間を最大限に利用したいのです。そのためにも文章に目を通し、音読するところまでは確実に自宅でやっておいてほしいと思います。従来なら、音読の課題を出しても、誰も聞くことができず、実際にやったかどうかも確認することができません。それだけになかなか学生もやる気が起きないようでした。でも、Glexaは音声を使った課題提出も可能にしました。提出したかしていないかも、オンラインで確認できますので公平に評価することもできます。各クラスで85~90%の学生は自宅で課題にしっかりと取り組んでいますよ」

Glexaを導入した二つの利点

 Glexaを導入した利点について、河合先生は次のように説明する。
 「利点は二つあります。一つには、自分のペースで学習できること。学生たちは自宅で音声を録音して提出します。その際イントネーションが画面に表示されるため、イントネーションの習得に焦点を絞った学習ができます。そうして正しいイントネーションが身につくと同時に、英語の音を聞き取る力も高まります。もう一つは、自宅で書いて提出し、私から添削を受けた英文を、講義の時間に友達を相手に実際に使って会話することができること。会話練習をふんだんに取り入れることによって、予習復習の意欲が高まります」
 北大では1年生1学期に、全員がe-Learningで英語の講義を受講しなければならず、そこでGlexaの使い方をはその時に身につけている。そして、1年生の2学期には、中国語やドイツ語、フランス語といった第二言語もe-Learningで学習することになるが、どの講義でもGlexaが活用されている。Glexaは教室だけでなく、学内では図書館、そして自宅でもログインして利用することができる。学生たちは週150~180時間はGlexaによるe-Learningに取り組んでいるという。そうして自分で学ぼうとする姿勢を身につけた学生たちは、予習や復習に積極的に取り組み、その学習成果の発表の場として、講義でもいきいきと学んでいる。

高いコミュニケーション能力も養成したい

 「学生に英語を使う機会を数多く与えたい」と河合先生は考えている。「本学に入学してくる学生を見ると、センター試験に向けて、読む・書く・聞くという学習はしていても、話す学習はほとんどしていなかったのだろうと感じます。そのため、発音やイントネーションに関する指導も不十分です。でも、話す力がつけば、聞き取る力も同時に高まるものです。だからこそ、講義では話す力を高めてほしいと考えています」
 だが、英語を人前で話すことに慣れていない多くの学生は、しんと静まり返った教室で英語を話すことを恥ずかしがる。話す力をつけるには「恥ずかしい」という壁を打ち破り、一歩前に出ることがまず大事だ。そこで、いくつもの課題が出され、自宅で自分の話した英語を録音しては聞き返し、話すための準備を重ねる。
 たとえば、Glexaの教材作成機能の一つである「Phoneタイプ」を使い、「サンフランシスコにあるレストランへ予約の電話をかける」という課題を与える。モニタ上にあるプッシュボタンで指定された番号に電話をかけると、レストランの予約担当の女性が応答し、日時や時間、人数など、質問に答えるものだ。話した音声は録音され、ただちに提出される。応答パターンは17通り2800種類の会話が用意されており、かけるたびに応答内容が変わる。相手の質問を確実に聞き取り、臨機応変に、的確に答えなければならない。
 Glexaにはほかに「Motionタイプ」もあり、動画を閲覧しながら、随所で問題が出され、入力したり、発話したりして解答するといった機能も備えられている。
 「学生たちの”英語を話せるようになりたい”という気持ちに応えるためにも、できるだけたくさん、英語を使う機会を与えたいのです。卒業後、社会に出て、必ずしも全員が英語を日常的に使うことはないでしょう。でも、たとえ英語を使わなくなっても、学生時代に勇気を出して英語を使ってみたという経験が、人生の糧となるものです。そうした経験をしたことで、人生に対して積極的になれるはずです。私がめざしているのは、英語力の向上だけではありません。学生たちを高いコミュニケーション能力を持った一人前の人間に育てることなのです。だからこそ、発表や質問の仕方、話を聞く姿勢を身につけさせたいのです」
 発表するには、自ら課題を見つけ、調べなければならない。調べた内容はまとめなければならない。調べた内容を伝えるためには、考えて書かなければならない。さらに発表にあたり、相手が知りたいことに留意して、物事を深く、幅広く調べておくことも必要だ。学生たちは、日々のさまざまな課題への取り組みを通じて、こうした力を総合的に伸ばし、コミュニケーション能力を高めてきた。Glexaはまさに、河合先生と学生たちをつなぎ、e-Learningと対面学習をつなぐ、大切なかけ橋の役割を担っている。

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