Case Studies

生徒たちが真剣に考え、話し合う授業 杉並区立和田中の「よのなか科NEXT」

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 土曜日寺子屋(ドテラ)、よのなか科、地域ボランティアなどの有志からなる和田中学校地域本部との地域一体となった学校運営など、斬新な取り組みで全国的な注目を集めている東京の杉並区立和田中学校。今回は代田校長の「よのなか科NEXT」の授業の様子を取材させていただいた。

「いのち」について考える

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この日のゲスト講師を務めた池川医師。

 3年生を対象に全5クラス合同で行われたこの日の授業、テーマは「命の誕生」。ゲスト講師として産婦人科医である池川明先生(池川クリニック院長)を招いての授業だ。
授業が始まると、まず生徒に提示されたのは、次のような問いかけ。「あなたは、男の子と女の子、どちらがほしいですか?」
5クラス合同ということもあり、この日の授業は和田中の体育館で行われた。質問はステージの大きなスクリーンに提示される。生徒たちはクリッカーと呼ばれる回答用の端末を手にしており、ボタンを押して提示された質問に回答する。結果は即座に集計され、集計結果もスクリーンに投影して生徒たちにフィードバックされる。スクリーンに映し出された棒グラフでは、結果はほぼ半々。
質問はさらに続く。
「男の子か女の子か、生まれる前に知りたいですか?」
「生まれる前に検査で知ることができたら、検査しますか?」
いくつかの質問が続けてスクリーンに映し出され、生徒たちは手元のクリッカーを使って回答していく。結果は逐次スクリーンに映し出されるため、生徒たちは周りのみんながどう考えているのかを確認しながら、授業に参加することができる。

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生徒たちは手にしたクリッカーで質問に答える。

 代田校長に促され、ゲスト講師の池川先生が解説を加える。出生前に検査をすれば、ほぼ確実に性別を知ることができるという。
3年生はちょうど、理科の授業で遺伝子について学習したばかり。性別の違いは性染色体の違いによるもの、という授業で得た知識を代田校長が再確認する。

 さらに質問は続き、徐々に今回の授業の本題に迫っていく。
「男の子か女の子か、希望する方でなければ、中絶をしますか?」
そして、授業の本質となる問いが生徒たちに投げかけられる。
「赤ちゃんに障害があるかどうかを生まれる前に知ることができ、もし赤ちゃんに障害があれば、中絶をしますか?」

生徒一人ひとりが参加して作られる授業

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 授業のテーマは非常に重いが、生徒たちは真剣そのもの。クリッカーを使って回答するだけでなく、生徒たちはグループで話し合い、なぜそう考えるのか、意見をぶつけ合う。代田校長は折に触れて数名の生徒にマイクを渡し、発言を求める。
この「よのなか科NEXT」の授業は、希望すれば誰でも参加することができる。見学ではなく参加。生徒たちの輪に加わり、話し合い、意見を述べることが求められる。この日も一般参加者が生徒たちに交じってディスカッションに参加していた。
3年生全員、およそ160名が参加する合同授業。先生は頻繁に生徒の発言を促すが、それでも授業中に発言できる生徒の数は限られてしまう。クリッカーを使うことで、授業中に発言する機会のない生徒にも自然と参加意識が芽生えるのだろう。

 この日の授業は6・7校時を使って行われた。専門家であるゲスト講師の解説を聞き、染色体の差異による先天性疾患を患う同年代の少女の映像も紹介された。ボランティアの学生が、出生前検査に関して正反対の立場をとる2か国の政策を紹介し、どちらの立場を支持するかという話し合いも行われた。非常に中身の濃い授業だった。

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体育館で行われる授業。この日はテレビ局も取材に。

 「今日の問題に、正解はありません」――代田校長も池川医師も、どちらが正しいと言うことはない。しかし、こうした問題について真剣に考え、意見を出し合うことには大きな意義がある。
「よのなか科NEXT」では毎回、やがて生徒たちが直面するであろう社会のテーマを取り上げて行われるという。実際に授業を取材して、その意義の一端に触れることができた。

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